リーダーの自己変革が難しいという2つ目の理由は、楽観しているということである。一息入れているとでも言おうか。「俺は成功した、これからも組織はこのまま成長していくはずだ」と勝手に期待している。会社の利益は今のまま上がっていくものだと思い込んでいる。ある意味、現実を直視していないのである。成功体験に酔ってしまい、目の前の問題に気付けない状態である。
車を140キロの速度でずっと運転していると、そのうち140キロが速くないと感じる。160キロを出しても速いと思わなくなる。それと似た感覚で、成功に慣れすぎて、周りが見えていないのである。
ビジネスはそんなに甘くない。そうした心の隙間が出てきているときこそ危険が潜んでいる。組織が変化しているのに、自己変革をせず、「俺は成功している」「会社はこのままで業績を伸ばしていけるはずだ」とリーダーが思っている。ところが、業績は上がらず自分が思い描いているものと実際の業績にギャップが生まれる。
そうするとどうなるか。世の中や社員が悪くなる。業績が上がらないのを社員のせい、世の中のせいにするのである。「俺はしっかり指示を出しているのに、指示通りに部下が動かない」「燃料や原材料が高騰しているから」「経済全体が停滞しているから」などと、他人や外部の環境に、責任をなすりつけるのである。そうなると、リーダーは組織にとってがんになる。組織はリーダーの器しか成長しない。リーダーの器=組織の器だからである。
駄目な経営者はすぐに分かる。それは、たくさん名誉職の肩書きを持っている人である。自分の本業より、ロータリークラブの活動や経団連の会合などで忙しくしている。自分の本業を無視して、それらの名誉職に取り組むのである。こうなってきたら、リーダーを辞めるべきである。本業をおろそかにして名誉職ばかりに目を向けるのは、リーダーとしては終わりである。勝ち続ける組織を率いるリーダーに、そんな暇はないはずである。
最後の理由は、適切なフィードバックをリーダーにする人がいないという点である。上司は部下に意見を求めがちだが、実際にはほとんどの部下が上司にフィードバックできない状況にある。逆にフィードバックするような部下は、何も考えていないか、転職を考えているか、辞めたいと思っている人である。部下が何も指摘をしてこないためリーダーは居心地が良くなる。都合の良い情報しか入ってこなくなり、ますます自己変革できなくなる。
自分にあえて苦言を呈する人をそばに置かないと、リーダーは自分の力を過信し、自分は成功したと思い込み、自分を変えることが難しくなる。人間誰しも、人から文句を言われたくない。ましてや、目下の人から言われるのは、より不快に感じる。成功した人ならばなおさらである。それを改善するためには、リーダーは自分のことを客観的に見て、苦言を呈してくれる人をそばに置いておかなければいけない。
リーダーが自己変革することが難しいという理由がお分かりいただけただろうか。しかし変化の激しいこの時代、リーダーが自己変革をしない組織は取り残される、いや生き残れない。難しさを認識しつつ、どのように自己変革をしていったらよいか、次回以降で述べていきたい。
細川馨(ほそかわ かおる)
ビジネスコーチ株式会社代表取締役
外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授