病は気から、老化も気から、企業経営も気から―神経年齢の評価―エグゼクティブのためのアンチエイジング

人間生きていれば爽快な日や憂鬱な日があって当然。大事なことは日々の開放と前向きな姿勢。100歳を超えても健康で自立した百寿者を目指そう。

» 2009年09月10日 08時15分 公開
[ITmedia]

 老化に伴い精神神経機能にはさまざまな変化が生じます。健康感が徐々に薄れ、身体に異常を感じる頻度も増えてきます。生きがいや生きる意欲の喪失。寝つきが悪くなり、中途覚醒に悩まされます。情動失禁など感情バランスが乱れ、ストレスに対しても心身共に弱くなり、ダメージからの回復が遅れます。

 企業経営には気力を持つことが最も大切。もしもエグセクティブがこのような状態に陥ったら、会社はどうなることでしょうか? 

予防が一番

 ストレスの蓄積は初老期の抑うつ状態につながります。初期には軽度の認知機能障害であっても、やがて高度に荒廃した状態、すなわちボケの状態に至ります。一度完成されてしまった高度な障害(いわゆる痴呆状態)を元に戻す治療は極めて困難です。予防する方がやさしいし、有意義です。

 世の中には老化の兆しが精神神経機能に早期に出現する人たちが存在します。神経年齢をチェックして、早めに見つけて対応することが大切です。アンチエイジングドックでは、ウイスコンシン大学カードソーティングテスト(WCST)という高次脳機能検査を実施して、神経年齢を評価しています。このテストは日本脳ドック学会が推奨する検査方法で、コンピューター対面式にゲーム感覚で行い、10〜15分で終わります。脳ドック学会の会員ならば無償で入手できるソフトウェアです。

 実際の年齢(実年齢)に比べて神経年齢を7〜8割くらいに若く保つことができれば良いのですが、実年齢よりも高く出るようならば注意が必要です。その方はさらに精密な脳機能検査やMRI検査を受けたほうがよいでしょう。

上手にストレス対策を

 それでは神経年齢を若く保つためにはどうすればよいでしょうか。ここではいくつかの方法を紹介します。

(1)目的意識を持つ

 「病は気から、老化も気から」の意識は、治療への動機付けという意味では生活療法のうち最も重要です。これは生きる意欲に通じており、これがない限り何も始まりません。一般的には「自分は100歳まで生きるぞ」「寝たきりにならないぞ」「絶対にボケないぞ」といった具体的目標を持つことを勧めています。エグゼクティブならば「90歳になってもゴルフをやるぞ」「いつまでも若く美しく」など、生きることに対して少し貪欲にいきましょう。

(2)実践と報酬

 神経年齢を若く保つコツは神経をよく使うことです。全身運動と細かい手作業の組み合わせが良いでしょう。それから耳、鼻、目、口(舌)といった五官を使うことです。歌をうたう、楽器を弾く、積極的なおしゃべりをするなど何でも構いません。何もしないと神経がなまってしまうのです。

 目標を達成したら、自分にご褒美をあげると良いでしょう。例えば、旅行をする、美味しいものを食べるなど。医療従事者が受診者の努力を認め、評価すること、褒めることも報酬になります。職場でも同様に、部下が頑張ったことに対し適切に評価し、褒める、ねぎらうこともエグゼクティブとして大事な役割です。

(3)ストレス対策

 朝起きてから眠りにつくまで、日常生活のあらゆる行為は心身へのストレスです。ストレス刺激がまったくない生活は望ましくなく、高齢者ではかえって認知障害(ボケ症状)を進行させてしまいます。ストレスによりダメージを受けたら、睡眠と休養によって十分に回復させて、次のストレスに立ち向かいましょう。ダメージをひきずったまま次のストレス負荷が加わると、ストレスが過剰蓄積状態に陥ります。

 わたしたちの調査ではエグゼクティブのストレス負荷は同年代者に比べて過大であることが分かっています。多くのエグゼクティブはストレス対策を上手に実践しています。そうでなければ厳しい闘いを乗り切れません。これからエグゼクティブを目指す方はストレス対策の達人になりましょう。

百寿者への道のり

(4)良質な睡眠

 日々の生活の疲れを取るため、ストレスによるダメージから回復するためには良質の睡眠を取ることが大切です。ぬるめの風呂につかるなどして神経を鎮め、快適な睡眠環境を整え、睡眠時間を多めに確保しましょう。加齢に伴う睡眠障害の大部分はメラトニン分泌不足が原因なので、自分自身のメラトニン分泌を促す生活を心掛けます。

 朝起床時に明るい光を浴びる、長時間の昼寝は避ける、カフェイン摂取を避ける、アルコールの過剰摂取を控える、部屋を暗くして眠る、といったアドバイスをしています。

(5)豊かな感情

 精神神経的にどのような状態が健常なのでしょうか。それは喜怒哀楽といった感情が豊かであり、夢や想像力に溢れている状態です。1つの感情が極端に強過ぎても弱過ぎても、感情の流れが激しくても滞ってしまっても、それは感情の乱れた状態となります。怒りや悲しみも我慢し過ぎるのは問題です。時には気心の知れた仲間に対して、身体に溜まった毒(うっぷん)を吐き出すのも1つの方策です。

(6)前向きに考える

 100歳を超えても健康で自立した人を百寿者と呼びます。百寿者は前向きな考え方を持つ人が多いという調査結果があります。わたしたちの調査でもエグゼクティブの方々に「前向き思考」の持ち主が多いことが分かっています。

 しかし、前向きな考え方は大切でしょうが、これまでの生き方を簡単に変えられるものではありません。もしも自分があまり前向きな考え方の持ち主でなかったら、どうしたらよいでしょうか? その場合は、前向きな考え方を持つ精力的な人を周りに見つけ、できるだけ一緒にいることがお勧めです。


著者プロフィール

米井嘉一(よねい よしかず)

同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授

1958年東京生まれ。1986年に慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程を修了後、UCLAに留学。1989年に帰国後、日本鋼管病院内科 人間ドック脳ドック室部長を経て、2005年に同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授就任。現在は同志社大学生命医科学部の教授を兼任し研究に尽力するほか、日本抗加齢医学会の国際担当理事として、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど各国の抗加齢医学会との交流に努める。主な著書に「抗加齢医学入門」(慶應義塾大学出版会)、「アンチエイジングのすすめ」(新潮社)など。



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