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» 2011年03月02日 07時00分 公開

知的興奮がビジネスの出発点――ヴィレッジヴァンガード成功要因を探る (2/2)

[大西高弘,ITmedia]
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アンチチェーンオペレーションと権限委譲

 ヴィレッジヴァンガードの各店舗のいくつかを回ってみると分かることだが、扱う品、陳列の方法などは各店舗によって違う。狭いスペースにさまざまな本やCD、雑貨などを詰め込んで配置しているのは共通したパターンだが、よく見ると、マンガや写真集を絡めた陳列が店の中心にある店舗もあれば、デジタル腕時計が数十種類ガラスケースに置かれている店舗もある。

 「いわゆるチェーンオペレーションはしないのです。アルバイトから社員になり、経験を積んだ店長に大きな権限を与えています。何を仕入れ、陳列し、どういう棚にするのかは任せています。わたしが何かを指示するということはありません。言いたくなることはありますけど」と菊地氏は話す。

 アルバイト店員になる人は、ヴィレッジヴァンガードの店が好きになって入り浸るようになった人がほとんどだという。こうした人材がゆくゆくは権限を委譲され、店舗を切り盛りする立場になる。創業者であり、社員たちにとってはカリスマ的存在でもある菊地氏が厳しく指導することもない。正社員323人、臨時雇用者2510人、店舗数、385店舗(直営358店+FC27店)という規模にまで成長できたのも、口を出さず、各店舗が個性を獲得するまで見守る菊地氏の覚悟が大きく影響しているのではないだろうか。

 菊地氏はある夢を語り始めた。

 「既にわたしはこの世にいなくなったある時、ヴィレッジヴァンガードの何代目かの社長が『ワールドビジネスサテライト』にゲストとして呼ばれる。そして成功の秘訣を聞かれ、アンチチェーンオペレーションと大幅な権限委譲について語り、最後に『僕たちにはこれしかなかったのです』と話す。そんな光景が見られると面白いかなと」

 そのころには、ヴィレッジヴァンガードは今以上に大きな企業となっていることを前提にした話。子供っぽい発言にも聞こえるが、アンチチェーンオペレーションと権限委譲で、まだまだこの不況を乗り切っていけるという自信に満ちあふれた発言といえる。

成熟市場で抜きんでた存在となるための条件

 「わたしもヴィレッジヴァンガードの大ファン」と話す、早稲田大学IT戦略研究所所長、大学院教授の根来龍之氏は、ヴィレッジヴァンガードの成功の背景にあるものについて次のように話す。

 「本、CD、雑貨いずれを販売するにしてもヴィレッジヴァンガードが属する小売店業界は成熟産業であり、同社は成熟市場の中で戦っています。新しい産業、市場の中で戦う企業とは環境がまったく違います。ヴィレッジヴァンガードが成功した理由には、菊地会長の才能、こだわり、知見といった要素も含まれますが、失礼ながら、それだけでここまでの店舗数にまで成長することは難しいと思います。やはり、何か別の要素が絡んでいると考えるべきでしょう。それは何か。わたしは、市場の想定の違いというものと、ある種の心理障壁というものがあったと考えています」

 根来教授によれば、「市場の想定の違い」とはヴィレッジヴァンガードのような業態あるいはビジネススタイルの企業は多店舗展開が難しいという市場内のプレーヤーの想定があったはずだという。

 「一見すれば、同社の店舗は非常に趣味的で限定された顧客にしか受け入れられないビジネススタイルに見えます。しかし、菊地会長は1号店をオープンさせてから間もなくして2号店を開店し、その後も共同経営の店舗や品ぞろえなどのスタイルを変化させた店舗を次々と開店させています。これは、同種の書店や雑貨店、CD店などを営む企業にとっては想定外の動きだったと言えます。そして店舗が増加していくことでヴィレッジヴァンガードのブランド力はどんどんアップしていき、追随する企業が出現しにくい環境を作ったと言えます」

 1986年12月に1号店をオープンし、88年6月に2号店がオープン、90年7月には共同経営のバードランド店、91年11月には5号店がオープンしている(参考:「ヴィレッジヴァンガード物語 菊地君の本屋」永江朗著 アルメディア刊)。1号店は農業用倉庫、2号店はプールバーを店舗用に改装している。もちろん賃貸である。いずれにしてもローコストで次々と店舗をオープンさせる戦略を創業当初から取っているのだ。

 根来教授はもう一つの成功要因、「心理障壁」についても語る。

 「最初に申し上げたようにヴィレッジヴァンガードは成熟市場にいる。書店や雑貨店にしても、あるいはCD店にしても業界の常識、掟のようなものに縛られているケースが多い。ヴィレッジヴァンガードの特徴である品ぞろえ、棚作りは、おそらく常識からすると非常識なものに映ったのではないかと考えられます。だからこそ、多くの人から支持を受けるわけですが、一方で『ああいうことはやりたくない、できない』と感じる同業者は多かったことでしょう。人気に火が付いてきても、追随する企業が少ない、店舗展開がどんどん進んでもまだ追随しない、そうこうしているうちにヴィレッジヴァンガードは独自の地位を市場で占めるに至ったわけです」

 成熟市場には、プロフェッショナルなプレーヤー、企業が豊富だ。その中で抜け出すには、想定外の戦略や多くの同業者がマネをすることにちゅうちょする営業方法などを取ることが有効だというわけだ。

 「人の能力なんて、どんなに差があったとしても2倍にはならない。でも、モチベーションの差は無限に広がる」と菊地氏は話していた。想定外の戦略、同業者がマネをしたがらない手法は、「遊べる本屋」をもっと多くの人に知ってもらいたい、楽しんでもらいたいという強烈なモチベーションから生まれたのである。

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