安売りの店から「情報とサービス」の提供へ――テンポスバスターズ 森下社長石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(2/2 ページ)

» 2012年09月26日 08時00分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]
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 組織としての見直しも進んでいます。年商100億になるまで、本部機能などの間接コストを削減し、店長に権限を与えてきました。ベンチャー企業として、裁量を現場に与えたほうがモチベーションが上がる時期があります。しかし、100億を超え、店舗数も40店を越えると、仕入れや在庫政策にスケールメリットや効率を求めるほうが、コストダウンになります。営業能力のばらつきを標準化することも重要です。

 幸い、テンポスは生産機能を持っていません。これは、ユーザーである「飲食店を始める人」のために自由に製品ラインを設計できる強みに他なりません。海外への発注も始めています。営業能力を標準化して、自由な仕入れのために、現場から情報を吸い上げ、本部がスケールメリットを働かせることができるでしょう。

これが強み? テンポスの人事制度は店長の降格あり、どころか、社長選挙制度

 テンポスの人事制度はユニークです。店長は立候補制で、新しい店長を決めるのはマネジャー陣です。しかし、店長はコンビニの商品と同じで常に入れ替える、仮に全店舗予算を達成していても下2割を交代させるという厳しさです。つまり、店長を降格させるのが社長の仕事なのだそうです。

 これだけの厳しさがルールとして決まっていれば、文句のいいようもないでしょう。店長から降格されても職を失うわけではありません。日本の会社は、降格なし、減給なしがあたりまえでした。高度経済成長期はそれでも会社の成長に合わせ、他にポストを増やすことができましたが、これからは欧米なみに成果主義が徹底しないと経営がなりたちません。昇格あり、降格あり、みなが納得する制度をつくることが大切です。

 降格が社長の仕事なら、その公正性を担保するのは「社長も選挙で決まる」制度です。これまでテンポスは社長交代の選挙が2回行われています。1回目の社長交代は創業者である当時の社長が立候補して再任されました。2回目の社長交代は、創業者が買収した会社の再建に専念するため立候補を取りやめました。新たに立候補した9人の中から店長、部長クラスの幹部、子会社の社長、そして立候補者も相互に選びながら採点していく仕組みです。

 選挙期間中の半年間は、毎月テーマを決めて採点者にプレゼンテーションをします。筆記試験もあります。評価軸は6項目で現状把握と問題点3つに対する解決策の提示、店舗運営方針、教育評価、実行力、人を育てる力と人に好かれる力、人格など多方面から評価しています。

 創業者が会社を成長させましたがその成長の中でひずみが起き始めており2008年に森下社長が引き継いだときは、33店舗中11店舗が赤字、子会社もすべて赤字だったものを、仕切りなおして安定させました。今年の決算では実質無借金の会社に戻し、来期の攻略目標を設定しました。しかし、森下社長はもう立候補はしません。なぜなら、次の新たな成長を導くのは違ったタイプの社長が必要だと考えているからです。事業サイクルに合ったタイプの経営者が選出されるのでしょう。

 テンポスバスターズは、リサイクル業界という特殊な業界に見えましたが、経営という観点では違いはなく、成長期を経てやるべきことが残されているのはいいサインです。これからのますますの成長を願ってやみません。

著者プロフィール

石黒不二代(いしぐろ ふじよ)

ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO

ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。


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