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» 2014年03月19日 08時00分 公開

「道具」で光る、「道具」を光らせる海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(2/2 ページ)

[井上浩二、小林知巳(シンスター),ITmedia]
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「道具」を光らせる――顧客の生産プロセスに競争力の源泉を創り出す

 先に述べたように、工作機械などの生産設備市場では日本メーカーの存在感は大きいものの、日本製品よりはるかに安価な中国製や韓国製の製品が台頭し、日本メーカーの脅威になってきている。

 しかし、安さより高い精度や性能を求める顧客企業も確実に存在しており、日本メーカーはそうした顧客から高い信頼を得ている。例えば、スマートフォンやタブレット端末の加工に不可欠な小型MC(フライス加工、穴空け、ネジのミゾ立てなどの金属加工を一台でこなす工作機械)において、メーカーが求める精密さと速さを実現できるのは、ファナックとブラザーの2社のみだと言われている。

 また、可変抵抗器の一種であるポテンショメータや変位センサを製造する緑測器は、顧客が「自分専用の製品を作ってくれる」と感じるほど、きめ細かくニーズに対応することで高い評価を得ている。特にグローバル市場で高く評価される中堅・中小企業の中には、こうした「一品一様」の製品開発力を強みとするものが少なくない注4)。「一品一様」で高い評価を獲得するためには、ニッチな分野に的を絞り、オンリーワンの高い性能水準を実現する技術力が前提となる。しかしそれだけではない。顧客の生産プロセスを深く知り、非常に面倒な要求に対し、粘り強い試行錯誤と地道なノウハウの蓄積を通じて確実に応えるという、高レベルの「カスタマイズ力」が求められるのが生産設備の分野なのである。

 「顧客の生産プロセスを深く知り、一品一様でカスタマイズする」という価値を、さらに一歩進めて「顧客の生産プロセスを改善するソリューション・サービス」を提供している企業もある。長野県に本社を置く日精エー・エス・ビー機械は、PETボトル成形機で約70%の世界シェアを握る。同社は、顧客の工場でPETボトルの成形が軌道に乗るまで支援し続けることによって、高い信頼を獲得している(注5)。

 生産設備は、顧客の製造プロセスに組み込まれるものであるため、必然的にソリューションとしての価値が求められる。そこに付加価値サービスを展開する機会が生まれるのだ。日精エー・エス・ビー機械は「顧客が最終的に欲しいのは成形機ではなくPETボトル」という考えのもとで、手厚い顧客サポートを実施している。一見手間ばかりかかるようにも思えるが、このサービスによって顧客の高い信頼を得られるだけでなく、市場の最先端のニーズの把握や自社の技術力のアップにつながり、それによって更に競争力が増すという好循環を生み出しているのである。

 先に紹介したブラザー工業が、顧客の工場に入り込み、製造プロセスを理解した上で、きめ細かくアドバイスし問題を解決する「One to One Solution Adviser」を打ち出しているのも、同様の取り組みと言えるである。このような取り組みは、厳しいQCDレベルをクリアしてきた日本の製造業だからこそ可能な「製造業のサービス業化」とも言えるだろう。このような力を持つ日本企業は、価格重視の戦略をとる海外企業に対して、サービスによる差異化で海外勢に対抗できるのではないだろうか。

「道具」を通じてビジネスを拡大する

 ここまで取り上げてきた企業は、いずれもニッチな分野において尖った強みを磨いているため、ビジネスの観点から見ると広がりに欠けるという印象を受けるかもしれない。しかし、ニッチな分野の製品開発の設備を極め、生産プロセスへの深い知識を蓄積することによって、全く異なる領域への多角化を実現した例もある。

 例えば、群馬県に本社を置く日本ハイコムは、自動車生産設備の製作や生産技術のコンサルティングサービスを中核事業としている。一方で同社では、食品業界向けのマイクロ波装置(食材を短時間で均一温度に解凍する装置)がもう一つの事業の柱として育ってきている。一見全く接点のない分野に見えるが、自動車メーカーの製造ライン、特に塗装ラインの設備設計・製作を通じて蓄積してきた技術があったために食品業界向けマイクロ波装置の開発に成功した、と同社の会長は述話べしているすることができたのである。(注6)。ニッチな分野の生産設備技術を深く極めることが、ビジネスドメインの拡張につながった例である。

 今回は、生産設備は最終製品を造りだす「道具」であり、最終製品の差異化やトータルコストの低減を支える生命線であるが故に、価格だけでなく付加価値で勝負できる分野であることを考察してきた。この分野は、国内顧客の高い要求に応えることで厚みのあるノウハウを蓄えてきた日本企業ならではの強みを活生かすことができる分野と言えるだろう。

 特定の製品生産の道具を磨き上げる、あるいは道具を軸にソリューションやサービスまで提供する、こうした強みを築くことによって、ニッチではあるがグローバルレベルで需要をつくり出すことができる。これにより、小規模であっても景気変動によるリスクを低減しながら成長することができる。また、ひいては事業ポートフォリオを拡大し、ビジネスリスクの更なる低減と成長速度の向上を実現できる可能性をも秘めているのだ。是非、「道具で光る」あるいは「道具を光らせる」ことにより、小さくてもグローバルにビジネスを展開する企業が増えて欲しいものである。


参考文献

(注1)日経産業新聞2013/4/9

(注2)Tech-On! 2012/11/22

(注3)日経情報ストラテジー2012年2月号

(注4)日本公庫総研レポート

(注5)日経産業新聞2013/4/9

(注6)日刊工業新聞 Business Line 2011/5/17

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


著者プロフィール

小林 知巳(こばやし ともみ)

株式会社シンスター パートナー・コンサルタント。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)にて12年間に渡り、組織・業務改革プロジェクトを数多く遂行。同社アソシエイトパートナーを経て、2000年に退社。以降、アウトソーシング事業、教育事業を展開するベンチャー企業の経営メンバーを歴任し、人材育成計画の立案・実践や企業研修の講師を務める。2009年、株式会社小林マネジメン ト研究所設立。同社代表取締役を務めながら、2011年よりシンスターに参画。数多くの企業の教育プログラムの開発を行い、講師としても活躍中。筑波大学大学院ビジネス科学研究科修士課程及び東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。


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