原材料から最終製品までのすべてのバリューチェーン上の工程を一つの企業が手掛けていることは少なく、多くの業界では水平分業性が進んでいることも多い。したがって、今必要なイノベーションが自社の事業領域内に存在しないという状況は頻繁に発生する。
成功例3:最終製品メーカーが上流にあるイノベーションを取り込んだ例(ブリヂストン)
自社の事業領域にイノベーションがない状況でもうまく取り込んで成功している事例としてはブリヂストンが好例である。日本が世界に誇るグローバル企業のブリヂストンは、2012年度の決算で、売上、営業利益率ともに世界ナンバーワンに輝いている。水平分業化が進む製造業にあって、ブリヂストンは垂直統合を進めることでバリューチェーン上で発生する様々なイノベーションを取り込んでいる。
ブリヂストンは、タイヤ事業のサプライチェーンにおいて、最上流である「原材料の研究・生産」から下流の「販売・サービス」まで自ら手掛ける、「縦のひろがり」によって、技術イノベーションを起こしている。原材料の研究は、天然ゴム資源となる植物の品種改良まで手掛ける徹底ぶりである。(図D:参照)
さらにブリヂストンは、上流にある素材や部品メーカーまで巻き込むことでいずれくる製品開発におけるイノベーションへ誘導し、加速させている。ブリヂストンのような最終製品メーカーは、バリューチェーン内の付加価値の源泉を見極め、どの部分を垂直統合・連携し、どこは水平分業化するかの「目利き力」を持つことが重要だ。
イノベーションは動く。バリューチェーン上にいるすべてのプレーヤーはその動きを見極め、自社の価値として取り入れる方法を探る必要がある。ボッシュのようにイノベーションの動きを予測し、イノベーションそのものを自社に引き寄せてしまうようなやり方もあれば、比較的下流にいるプレーヤーを巻き込んでイノベーションを確実なものにするASMLのようなやり方もある。一方でブリヂストンのように、自ら素材の開発に手を出してあらゆるイノベーションを自分のものにしてしまう例も見られる。
これは端的にまとめると、今多くの業界ではバリューチェーンを超えた連携によってイノベーションを自社の付加価値として囲い込んでいることを意味する。アップル社でさえ、スマホの次を狙い、様々な部品や素材への投資や買収を進め、上流にあるイノベーションを自社に取り込み始めている。
日系企業はどうか。半導体業界では半導体メーカー同士が統合して「日の丸半導体」を作ることに必死になっているが、正しい選択であろうか。かなり出遅れた形で水平統合を模索しているが、半導体メーカー同士を統合したところで、今イノベーションは半導体メーカーに求められていない。半導体業界で今必要なイノベーションは半導体装置の微細化や大口径化対応だ。ASMLやインテルがバリューチェーンをまたいで垂直連携を深めたように、日系半導体メーカーも次のイノベーションを勝ち取るために半導体装置メーカーやまたその上流にある素材メーカーと連携していく必要があるのではないか。
もちろん、単純に垂直統合・連携すれば良いということではない。重要なのは、イノベーションが動くことを認識し、発生箇所を見極め、タイミング良く捉えることである。様々な業界で、日系企業が生き残るためには、これまでのようなコンセプト主導型の製品開発のイノベーションだけに期待するのではなく、バリューチェーン全体を包含した様々なイノベーションを次々と捉えていくことが重要である。
大橋譲(Ohashi Yuzuru)
ローランド・ベルガー プリンシパル
カリフォルニア大学サンディエゴ校の情報工学部を卒業後、日本ヒューレットパッカード及びセピエントで企業のITシステム構築を多数経験した後、ローランド・ベルガーに参画。米国系戦略コンサルティングファームを経て、復職。消費財、自動車、石油、ハイテク企業など幅広いクライアントにおいて、成長戦略、海外事業戦略、マーケティング戦略、市場参入戦略(特に東南アジア諸国)、業務プロセス改革、コスト削減、IT戦略等のプロジェクト経験を有す
る。
佐藤大輔(Daisuke Sato)
ローランド・ベルガー シニアコンサルタント
慶応義塾大学理工学部を卒業後、大手監査法人にて公認会計士として会計監査、内部統制監査を多数経験した後、ローランド・ベルガーに参画。自動車、大手商社、ファンドなどを中心に、多数クライアントにおいて成長戦略立案、海外事業戦略立案、企業価値評価、コスト削減などのプロジェクト経験を有する。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授