組織マネジメントの本質は、意識の共有によって組織内の人間が同じ色眼鏡をかけていると信じられること気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2015年01月21日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]
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組織としてベースの価値観を共有すれば、推進力は強まる

中土井:組織マネジメントという観点で振り返ると、これまでにどのような苦難がありましたか。

兼元氏(右)と聞き手の中土井氏(左)

兼元:事業としてQ&Aサイトを運営している以上、PV数を増加させることが必要になります。しかし、私たちが本当にやりたいのはQ&Aによって議論をし、結論を導き出す弁証法としてのQ&Aサイト。遊び半分のものではなくて、困った時に頼れるものにしたかったんです。でも、それだと困ったときにしかサイトに来ないので、PV数を増やすのは難しいという悩ましい状況に陥っていたときがありました。オウケイウェイヴとしての存在意義が揺らいでしまっていました。社内で基本的な価値観やビジョンを共有できていなかったので、会社を経営していく中で、あらゆるところに違和感が生じていた時期でした。朝にミーティングをしようと提案しても、朝は嫌だという声が社員から上がったり、社長がいると意見をいいづらいから席を外してくれといわれたりもしました。

 サイトのデザインをリニューアルするときも、上がってくるものは私の感覚とはずれているものばかり。オウケイウェイヴとしてのベースとなる価値観やビジョンの共有ができていれば、ずれたものが出来上がることはないでしょうし、いちいち細かなことを指摘する必要もなくなります。組織としてベースの価値観に合っているかをいつも考えることができるので、自然によいものができあがります。私が口を出さなくなり、社員に任せることができるようになるので、社員を信じることにもつながります。

 今は、「互いに助け合いになってる?」ということと、「4スマート(スマート・プラットフォーム、スマート・オペレーション、スマート・ビジネスモデル、スマート・ソーシング)」を全社員で共有して、サービスを運営しています。

人は誰でも色眼鏡をかけて物事を見ている

中土井:「助け合い」をキーワードに事業を行っている一方で、人を恐れている対人恐怖症のような一面も兼元さんの中にはあると思います。ご自身の中では、それらがどのように同居しているのですか。

兼元:人との関わりについては、オーストリアの心理学者であるアルフレッド・アドラーさんの考え方がいつも私の頭の中にあります。人は誰もが色眼鏡をかけていると彼はいいます。人は自分が色眼鏡をかけていることに気付いていないというのです。

 小学校時代のいじめの話でいうと、友達という色眼鏡をかけて私のことを見ていた状態から、次の日には国籍という色眼鏡で私のことを見るようになり、私への評価が急激に変わったのです。国籍という色眼鏡をかけたことで、忌み嫌う存在として私をとらえるようになりました。

 善と悪があるのではなく、ただ単純に、誰もが何らかの色眼鏡をかけているだけなんです。自分のかけている色眼鏡を認識せずに、色眼鏡をひけらかしている人がたくさんいます。世界にはいろいろな問題がありますが、それらの問題に対して、何が本質なのか、どんな事情があったのかということを掘り起こしていくことが必要だと思います。ほとんどの人は、情動に左右されたままで、自分の視座を高め、どんな色眼鏡で捉えるのかを選ぶようなことはしていません。そのことを気付かせてあげられるのがQ&AサイトのOKWaveです。それが私たちのやりたいことです。

みんな違う色眼鏡をかけているという前提を受け入れた上で、組織として同じ色眼鏡をかける

中土井:お話をうかがっていて、気持ちが通じ合っていることを重要視されているように感じました。社内で気持ちが通じていないと、社員の皆さんが違う色眼鏡をかけている状態になり、行き詰まってしまう。みんなが同じ色眼鏡をかけている状態になると、物事がすっきりとして組織として前進する力が増すということでしょうか。

兼元:その通りです。世界は外にあると思っている人が多いと思いますが、そうではありません。世界は自分の頭の中にあるのです。見えているものがそれぞれ違うという前提をみんなが認識して、合意が取れているのがチームです。違っているのが当たり前だけれど、チーム内でベースとなるビジョンを共有することで、同じ色眼鏡をかけていると思い込むことができる。そのことによって、チームの推進力が強まることがマネジメントの本質だと思います。意識の共有ができ、同じ色眼鏡をかけられるようになると、自分では手を動かしてデザインをしていないのに、みんなと一緒に作品を作っているような感覚にもなれます。

自分の純粋な好奇心にしたがい、やりたいことをやっていく中で組織が成り立つのが理想

中土井:兼元さんは組織をどのようなメタファーでとらえているのですか。

兼元:漫画『ワンピース』の船のようなものだと思っています。乗組員それぞれが専門性を持ち、それぞれにやりたいことがある。その上でお互いに助け合う関係が成り立っているのが理想です。

 私の組織観は、アメリカのSFドラマの『スター・トレック』の世界観にも似ていると思います。スター・トレックの世界では病気がなく、お金の価値もありません。量子によって同じものをいくらでも作ることができるので、物の価値がないんです。そういう世界で、見たことのないものを探しにいきたいと宇宙船に乗って旅立つというのが『スター・トレック』のストーリーです。欲がなく、自分の好奇心だけにしたがって、やりたいことをやる人たちが登場します。クリエイティビティの上位レイヤーの世界が表現されています。もし、そういう世界が実現できたら、地球の資源を取り合って争うこともなくなり、みんなでシェアするようになります。今の世界は、まだ人類が幼い状態なんです。自分の好奇心にしたがい、その人がやりたいことを夢中でやっていく中で、組織が成り立っていく。それが理想ですね。

中土井:お話をうかがい、人の意識の持ち方をとても重要視されていると感じました。組織の中での意識の変化にチャレンジしているんですね。兼元さんの壮絶なまでの経験があったからこそ、それらが導き出されたのだと思います。一人ひとり違う色眼鏡をかけていることを認識した上で、同じ眼鏡をかけられるように組織としての根幹の価値観をきちんと共有するという点に大きな気付きがありました。

対談を終えて

 前向きに考えることがいかに大切かを唱えている人は数多くいます。しかし、骨のある前向きさとそうでないものの違いに着目している人にお目にかかることはめったにありません。

 嫌なことから目をそらしたり、臭いものにふたを閉めるかのような前向きさは、どうしても軽く見えてしまったり、大切なことから逃げてしまっているかのような印象を与えます。それに対して、骨のある前向きさは、厳しい現実を目の当たりにしてきたからこその力強さを感じます。いじめやホームレスなどの壮絶な半生を経たことで見出された「人は色眼鏡をかけているに過ぎない」という兼元さんの捉え方は、人間に対する究極的な前向きさのように思います。人は色眼鏡をきちんとかけることができれば、善意を表すことができる。それができないのは、ただ人類が幼いだけで、人類を前に進めるためにインターネットを使った事業を行っているというシンプルな動機は、壮絶な過去の経験に根差した本質である分、畏敬の念をもって共感せざるを得ませんでした。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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