コミュニケーションの質が一変! 心理カウンセラーの「聞く技術」とトレーニング法ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

» 2023年02月28日 07時06分 公開
[松弥々子ITmedia]
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 部下、後輩が仕事で失敗した、お客さんを怒らせたといった話をしていたら、「それは悲しいね」「それは落ち込むよね」「それはへこむね」と相手の感情を理解していることを示す。部下、後輩が腹を立てていたら、「それは腹が立つね……」「それはムカつくね……」と相手の感情を共感し代弁することで、共感的理解を示すことができる。

 この共感的理解にも、やはりNGワードがある。それは「分かるー!」という言葉。これは「同感」になるのでNG。あくまでも相手の感情を共感して理解することが重要なのだ。

 「これらは、カウンセラーが実際に使うテクニックになります。カウンセリングもスポーツと同じで、日々の練習なんです。これらの受容、共感的理解を示す言葉を使った対話を1カ月くらい続けてもらえば、相手との対話がスムーズになるはず。部下と話していると「甘いことを言ってるな」などと思う時もあるでしょうが、これらの言葉を使ってコミュニーションをとっていると、相手に対するいら立ちや不満もだんだん和らいで、気持ちが楽になり、人の話を聞けるようになるはずです。ぜひ使ってみてください」(山根氏)

すぐにはできない『自己一致』

 受容、共感的理解と違って難しいのが自己一致だ。

 自己一致は、自己概念(私は〇〇だ)と実際の自分が一致している。自分にウソをついていない心理状態のこと。自己欺瞞(ぎまん)を回避して自己概念の更新と統合を目指すことといえる。自己概念と現実が異なっている場合は、今の現実が答えであり、自己概念よりも現実を重視することが重要となる。

 「自分はやさしい人間だ」という自己概念を抱いている人が、現実には「たまに部下にキレる」という場合、「自分はやさしい人間だと思っているけど、たまに部下にキレる一面もあるのだな……」と理解することで、自己概念の更新と統合ができ自己一致に近づいたといえる。しかし「自分はやさしいのに部下が切れさせた、あいつが悪い」というふうに現実を否定して自己概念に執着する態度を取ると、心理的不安をまき散らす存在になるため注意が必要だ。

 「自分はやさしいと思っていて、立派な先生っぽく振る舞ってるけど、たまに子どもにキレて叱ったりもします。開き直りでもありますけど、それがあるがままの自分なら、それが自己一致した状態です。自分の概念と自分の現実を一致させる、これが自己一致なので、ぜひ心掛けてみてください」(山根氏)

すぐにはできない「自己一致」

カウンセラーの「聞く技術」養成トレーニング

 最後に山根氏が伝授してくれたのが、聞く技術を上達させるための、簡単でありながら効果的なトレーニング方法だ。それは「質問は全て5Wからの1Hに限定する」というもの。

 カウンセリングをする場合は5Wの質問のみ、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(なにを)、Why(なぜ)。

 コーチングをする場合は1Hの質問も、How(どうやって)。

 コーチングに使用する「How」は、過去の原因を探すのではなく「これからどうやっていけばいいと思う?」という未来志向の質問として利用するのがコツだそう。

 「このトレーニングは実際にカウンセラーもやっています。重要な会議からではなく、軽い対話の場面からでいいので、質問の際に5Wのみを使うという練習をやってみてください。コーチングの場合は、未来志向の「How」も使えます。この5Wの質問を意識することで、本当にコミュニケーションの質がまったく変わってくるはずです」(山根氏)

 最後の質疑応答では、参加者から多くの質問が寄せられた。なかでも自己一致に関する質問が多く、「自分の意見もあるが、会社側の立場で部下と相対しなければならない管理職は、自己一致が難しいのではないか?」「自己一致した状態は“ウェルビーイングな状態”といえるのでは?」などという質問が挙がっていた。

 それらの質問に山根氏は、「自己が明確になればなるほど、自分の軸がしっかりしてくるので、逆に違うスタンスが取りやすくなります。自分はこうだけど、上司としての立場はこう、とスタンスが揺るがなくなるんですね。必要に応じていろいろな立場が取れるようになるはずです。自己一致ができているのは、自分のスタンスを持ってありのままに生きている、つまりはウェルビーイングな状態とも言えます。“ウェルビーイングな状態”であれば、他者ともよりよい関係が築きやすくなる。個人のウェルビーイングは他者のウェルビーイングにつながるんですね。ぜひウェルビーイングを目指して『自己一致』を進めていってください」と答えて講演を終えた。

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