6つのコア・コンセプトに続いて重要なものに「要求」があります。要求は要件定義活動で不可欠なものですがステークホルダーが明確に自覚しているもので、潜在的なニーズが顕在化されたものと考えられます。大きく次の種類の要求があります。
・ビジネス要求:なぜチェンジを開始したかを示すゴール、目標、成果の記述です。コンテキストにより、企業全体のビジネス要求もあれば、特定のビジネス領域、イニシアチブを対象とするビジネス要求もあります。コンテキストによりさまざまです。DXでは企業全体を対象にします。
・ステークホルダー要求:ビジネス要求を達成するために満たす必要があるステークホルダーのニーズです。ユーザー要求や業務要求が該当します。ユーザーの仕事内容やワークフローを理解することが大切です。しかしペーパーベースの作業(プロセス)を単にデジタル化する(デジタイゼーション)だけでなく、デジタル化によってよりよいプロセスにすること、すなわちデジタライゼーションまで考えましょう。
・ソリューションン要求:ステークホルダー要求を満たすソリューションの能力や品質です。上のステークホルダー要求を実現するためにソリューションが必要とする機能や制約です。
デジタイゼーションの場合はユーザー作業をデジタル化するだけでよいのですが、デジタライゼーションの場合はデジタル化によりユーザー作業(プロセス)が変わることがありますので、ステークホルダー要求とソリューション要求を同時に開発することもあります。そして、ソリューションの開発と実装を可能にできる詳細を機能面と非機能面に分けて記述します。
・機能要求:ソリューションが管理する振る舞い(プロセス)と情報(データ)の観点から、そのソリューションが持たなければならない能力です。データ構造、プロセス・フロー、ビジネスルールなどがあります。モデル化は上のステークホルダー要求と同じモデルを使いより詳細に分解していくのがよいでしょう。データの場合は概念データ・モデルから論理データ・モデルに、プロセスは機能分解でより詳細に記述しましょう。
・非機能要求またはサービス品質要求:ソリューションに必要な条件や品質です。パフォーマンス、セキュリティ、ユーザーインターフェースなど、ソリューションに必要な条件です。最近では特にユーザーインターフェースとセキュリティが重要ですね。
・移行要求:データの変換、教育訓練、組織変更、事業継続などで、現在から将来状態に円滑に移行するためにソリューションが必要な能力と条件です。チェンジが完了した段階で不要になります。
・持続可能性要求:ビジネス要求、ステークホルダー要求、ソリューション要求を組織のサステナビリティ目標に結び付けるためのゴールを評価します。
この持続可能性要求がありますので、最近話題になっているESGやSGDsもビジネスアナリシスの対象とすることができます。
最後はビジネスアナリシスのマインドセットの話です。
チェンジの主役はステークホルダーですから、その人たちが喜んで自分の要求を話したくなるには聴き手であるビジネスアナリストは信頼されていなければいけません。信頼がないままいくらヒアリングしても正しい要求を引き出すことはできません(当たり前のようですが極めて重要です)。
また、要件定義段階で無理やり押し付けられた要件で開発されたソリューションを、導入時にステークホルダーが使う(チェンジする)気になるでしょうか。なりませんよね。それより、ステークホルダー自らが意思決定した要求仕様であれば、ソリューションが導入された時点において、チェンジして使おうという気持ちになりますよね。
ですから、いかにステークホルダーが主体となって要件定義に参加してもらうかが、チェンジの成否を決めると言っても過言ではありません。どうしたらよいでしょうか。そのためにはビジネスアナリストは謙虚になり、信頼されることです。そして共感を示し、しっかり傾聴しましょう。
すなわち、ビジネスアナリストは主役ではなく、むしろ黒子のような存在になるのがよいのです。ビジネスアナリストはこのようなマインドセットを持つ必要があります。
海外のビジネスアナリシスのカンファレンスに参加してみると、女性が7割程度もいることに驚きます。それは女性の方が共感力が優れていることが要因ではないでしょうか。ビジネスアナリシスは女性にも適した専門職と言えます。
そして、マインドセットを発展したものとして、次のビジネスアナリシスの原則を紹介します。もとはアジャイル領域での原則でしたが、アジャイルに限らずビジネスアナリシス全般に適用されることになりました。
これらの原則は上記マインドセットとコア・コンセプトと密接な関係があることが分かります。
少し長くなりましたので、前編はここまでとします。次回は更に具体的なビジネスアナリシスの仕事の内容を紹介します。
CBAP、(株)KBマネジメント 代表取締役、前IIBA日本支部BABOK担当理事
28年間、YHP/HPにて、営業マネジャー、マーケティングマネジャー、SEマネジャー、SE教育マネジャーを歴任。グローバルシステムの導入でビジネスアナリシスの経験を積む。その後に独立し、KBマネジメント社を設立し現職。現在は、人材教育コンサルタント、研修インストラクターとして、IIBA認定ビジネスアナリシス教育プログラムの開発と提供を手掛ける。
2015年〜2022年(8年間)IIBA日本支部BABOK担当理事
「やさしくわかるBABOK」(秀和システム)(共著)。BABOK®ガイドv3(日本語版)監修責任者。キンドル版「よくわかるビジネスアナリシス」(共著)BABOKガイドアジャイル拡張版v2(翻訳・出版)、ビジネスデータアナリティクス・ガイド(翻訳・出版)プロダクトオーナーシップ概論(翻訳・まもなく出版)、資格:CBAP(Certified Business Analysis Professional)(2011年)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授