20代が仕事選びで重視する項目で減少傾向にある項目を見ると、「休み」「人間関係」「ワークライフバランス」「収入」などがある。5~10年前は、時間外勤務は嫌だという若手世代が多かったが、自分の成長につながるのであれば時間外の勤務も意味があると考えるZ世代社員が増えているのだ。
Z世代の若手社員を率いるためにも、これからの管理職は、プレイヤーの延長ではなく、ダイバーシティマネジメントのプロフェッショナルを目指す必要がある。組織のミドル層である管理職には、人を動かすヒューマンスキルが求められる。さらに言うと、Z世代社員などに対する際には「この上司の下で仕事をしたい」と思わせる人の“心”を動かすスキルが重要になるのだ。
ハーバード・ビジネス・レビューでは、人を惹き付け離職を防ぐ4つのファクターとして、以下を挙げている。
1.物理的な待遇(個人・短期的)
2.能力開発・成長の機会(個人・長期的)
3.つながり・連帯(集合的・短期的)
4.意義・パーパス(集合的・長期的)
この中で、特にZ世代社員の心を動かすうえで重要なのは、「能力開発・成長の機会(=成長実感)」「意義・パーパス(=働きがい)」の2つになる。日々の仕事を通じて成長実感を与え、自分自身の働きがいを感じさせなければならない。
「成長実感と働きがい、この2つを強く意識して、Z世代社員に働きかけ、彼らの心を動かすことが重要です」(前川氏)
では、Z世代社員に働きがいや成長実感をもたらすため、どういう上司力を発揮すればよいのか。そのためには3つのステップがある。
Z世代社員は、SDGs、パーパス経営、エンゲージメント経営などに強い期待や共感を持って入社してくる。しかし実際に入社して業務に追われてみると、入社前に描いていた理想と現実にギャップを感じるようになる。上司は彼らのギャップを丁寧に受け止めることが大事だ。
上司は、Z世代社員の話を傾聴し、彼らの不安を適切に受け止めて解消させ、成長のバネにすることが重要なのだ。その傾聴の際には、必ずしも問題を解決しなくてもよい。すぐに答えを与えることは、必ずしも是ではない。相手を理解するため、意志を持ってしっかり聴き、適宜問いかけを行うことが必要になる。
「上司に必要なのは、フィードバックを“見通す目”と自己開示を“見守る目”です。ジョハリの窓で説明すると、部下の盲点を見通してフィードバックしていき、秘密の自己開示を見守り、未知の可能性を拡げていくことが重要になってきています。この時に、良い期待を持って、ありのままで肯定しましょう。ピグマリオン効果で部下は上司の期待どおりに変わっていきます」(前川氏)
会社の業績を上げるため、部署の目標を達成するために、各社員に振り分けられる業務や目標がある。この組織人としてやるべきことを、ただ「やれ」と指示出しするのではなく、「この仕事はあなたがプロフェッショナルに成長していくためにどういう役に立つか」と個人のキャリアとしての観点に翻訳して伝えることが重要になる。その上で、Z世代社員にキャリアの意味と意義を考えさせ、組織に貢献することを働きがいにつなげていかなければならない。
「そのためには、“作業”ではなく、“仕事”を任せることも重要です。作業を指示した際には、部下からその作業の目的について“質問”させ、作業内容を工夫して“提案”させましょう。 “相談”して承認を得るという段階を踏むことで、部下にとって、その作業が“仕事”として取り組むべきものとなります。これを習慣化していくことで、働きがいと成長実感が部下にもたらされるようになるのです」(前川氏)
ゴールに向けて、小さなキャリアの階段を設定し、0.1段でも自力で上った実感を伴わせることでZ世代社員に成長実感を与えることができる。作業ではなく仕事を任せることを繰り返しながら、1on1などの対話を通して、彼らの成長を言葉にして伝えることで、本人が自分の成長を実感できるようになるのだ。特に経験の浅い部下には伴走が必要なので、細かく成長を伝えて行かなければならない。
「このSTEP1、STEP2、STEP3を、僕は”若手を育てるマネジメントループ”と名付けました。このループを繰り返すことで、若手社員は働きがいを感じ、自分自身が成長できることを実感してくれるはずです。こういう人が育つ場づくりで、Z世代社員の安易な離職は必ず激減できるし、若手社員の育成が進むと考えています」(前川氏)
上司に求められるものは、部下一人ひとりの持ち味を踏まえて仕事を任せ、育て活かし、共通の目的に向かう組織の力を高め、個人では達成できない結果を導き出すことである。そのためには若手部下とのギャップを埋めるコミュニケーションを丁寧にとっていかねばならない。
最後に、前川氏は「真のリーダーシップとは、従わない自由があるにもかかわらず、人々が付いてくることだ。リーダーシップとは、部下にやらなければならないことをやりたいと思わせる技術である」という『ビジョナリーカンパニーZERO』のジム・コリンズの言葉を紹介し、講演を終えた。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授