【第9回】GEはどのように幹部候補生を育成するのか日本流「チーム型マネジメント」

業績だけでなくチームを重視した価値観も反映しているのが然るべきリーダーである。世界的な大企業であるGEでは、まさにそうした考え方を評価基準としているのだ。

» 2009年07月23日 14時09分 公開
[岩下仁(Value Associates Inc),ITmedia]

グローバルで実現すべき民主的リーダーシップ像

 前回、多くの日本企業が目指すべきは人と仕事への高い関心を示す民主的リーダーシップであると述べた。今回は米General Electric(GE)を例にとり、具体的にリーダーシップの評価と育成について述べる。

経営グローバル化における日本系企業の位置付け 経営グローバル化における日本系企業の位置付け

 業績のみならずチーム重視の価値観も反映するのがあるべきリーダー像である。チーム型マネジメントの調和や合意主体の意思決定を行動基準とし、基準を満たした人材をリーダーとして昇進させ、組織文化の形成につなげる。同時にほかの社員はあるべきリーダーの昇進を通して、自社の価値観を具現化し実践することの重要性を理解するのだ。

 例えばGEでは、実績だけでなく価値観の実践がリーダーの評価基準となる。高い業績(Performance)の達成だけでなく、チームワークやグローバルマインドなどの価値(Values)の実践が求められる。高い業績を上げてもあるべき価値観を実践しないリーダーは、いずれ会社を去るようになる。(Robert Slater著、The GE way Fieldbook より抜粋、加筆)


GEの人材評価タイプと処遇(業績と価値観の実践) GEの人材評価タイプと処遇(業績と価値観の実践)

 チーム型マネジメントでは、守るべき価値観(チームワークや合意形成)とリーダーの評価に一貫性を持たせるべきである。避けるべきはチームワークを推奨しながらも、個人プレーで実績を挙げた人材の昇進や、個人の業績を主体とした報酬制度などである。このような言行不一致となる昇進や報酬制度は、ほかの社員にとって不信感を植え付け、モチベーションをそぐ結果となる。信頼感が得られなければ、チーム型マネジメントの構築は不可能である。

 将来的にはグローバルリーダーを自社の経営幹部候補生と位置付ける。1990年代、GEにおける次期CEO選抜過程では、経営幹部候補を意図的にGEグループの交通システムやGEキャピタル、そして成長するアジア市場担当などの戦略部門に配置した。同様にネスレやプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)でも、本社の幹部候補生には海外市場での経験を必須とし、それを自国市場で生かすことを推奨している。グローバル市場での経験を幹部の必須条件とすることで、グローバルリーダーになる大きな道標を与え、動機付けることができる。

 日本企業にとって、民主的リーダーシップ実現の前提条件になるのが、チーム型マネジメントである。米国などの欧米社会では、仕事を通して信頼関係を確立した後に、人への親しみや関心が生まれる。いきなり人への関心や親しさを前面に出しても効果は薄い。日本企業がグローバルで戦う鍵は、チーム型マネジメントを制度化し、メンバーの理解を得た上で民主的リーダーシップを実践することである。次回はチーム型マネジメントの実践方法を提案する。


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著者プロフィール

岩下仁(いわした ひとし)

バリューアソシエイツインク Value Associates Inc代表。戦略と人のグローバル化を支援する経営コンサルティングファーム。代表は、スペインIE Business School MBA取得、トリリンガルなビジネスコンサルタント。過去に大手コンサルティング会社勤務し戦略・業務案件に従事。専門領域は、海外マネジメント全般(異文化・組織コミュニケーション、組織改革、人材育成)とマーケティング全般(グローバル事業・マーケティング戦略立案、事業監査、企業価値評価、市場競合調査分析)。

現在ITmedia オルタナティブブログで“グローバルインサイト”を執筆中。


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