前回の価値ベースの提案では、請負でシステム構築を行うということを前提として考えました。請負とは、契約した予算内で完成させるということです。予算超過はシステムベンダーの負担で処理しなければなりませんが、一方で見積りよりもコストが少なかった場合には、ベンダーは高収益を享受することとなります。
大規模システム構築においては、最初の提案段階で概算見積りを提示し、「グランドデザイン」フェーズを通じて見積りを精緻化するという進め方が多いです。これについてはわれわれも大きな違和感はありません。
ただ、提案書を拝見していると(グランドデザインに続く)設計以降のフェーズを請負で行うというものが、意外に少ないと認識しています。この理由としては、システムベンダーが「グランドデザイン」の「品質」に自信を持てないことがあるかもしれませんし、優先度を設定し取捨選択していく自信が無いからかもしれません。
理由はなんであれ、請負で契約したがらない理由を明確にすることが必要です。
請負を要求することで、システムベンダーは仕事の品質を担保する工夫をせざるを得ませんし、発注者側も見落としていたリスクを明らかにできると考えられます。いずれにせよ予算超過のリスクをかなり低減させることが可能となります。
稚拙なプロジェクトマネジメント、機動力を欠いたエンジニア動員力などシステム構築の予算超過の原因はまだまだ存在しますが、以上の2点を確認するだけで予算超過のリスクはかなり低減されてきます。次のシステム投資の際には是非お試しをいただければと思います。
今回はシステムベンダーの責任について考えましたが、実は発注者にも大きな責任があります。最も大きな責任は「やりたいことがはっきりしていないのに、発注をかけている」ということです。
発注者は、一定レベルの品質を有した「提案依頼書」を準備し、システムベンダーに提示する責任がありますが、このような提案依頼書を拝見する機会は残念ながら少ないのが実態です。
われわれの経験から言えることは、システム構築の総予算の2〜5%程度の予算と時間を、提案依頼書の準備と提案書の精査に充てることにより、予算超過のリスクを大幅に低減することが可能ということです。発注者は、ほとんどの場合は企業の情報システム部門でしょう。人数の不足、システム構築の経験の少なさ、それに伴うスキルの欠如など、彼らが準備や精査をできない理由も理解できないわけではありませんが、できるようにしなければなりません。
企業の情報システム部門も、長年やってきた仕事に対して優先度を設定し、取捨選択することが必要ですし、それができた時に、情報システム部門も新しいステージに上がれるのではないかと考えています。
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早稲田大学政治経済学部卒業後、米国系戦略コンサルティングファーム、米国系総合コンサルティング・ファーム、米国系ITコンサルティング・ファームを経て現職。電機、建設機械、化学、総合商社、銀行など幅広い業界の大手企業において、事業戦略、オペレーション戦略、IT戦略の策定などを手掛ける。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授