視点3: 核となる人材が流出するリスクはないか?
システムベンダーは、労働集約的なビジネスが占める割合が大きいのが特徴です。つまり抱える人材の質が企業としての競争力に大きく影響します。有形の製品や生産設備を持たないため、2割の人間が入れ替わるだけで、その企業は別の会社になってしまうとも言えます。
現在の取引関係を支える人材が社外に流出することは、多くの場合その顧客を失うことを意味しますので、能力面、営業面で会社の核となる人材の流出リスクには充分な注意が必要です。
プロジェクトマネジメントのスタイル、人材育成の方法論は企業ごとに異なるのが普通ですので、両社の「働き方」の相性についても事前に確認をしておく必要があります。
以上、代表的な3つの視点を紹介しましたが、これらに充分に留意して対象会社の真の実力値を評価し、買収後の「将来の絵姿」「発揮すべきシナジー」について議論を尽くすことは、買い手の意思決定における重要な判断材料となります。
2010年2月、キリンとサントリーの統合交渉が破談になったことが伝えられました。
両社の選択については、「メンツに拘って変われない日本的経営の象徴」と批判する向きもありましたが、一方では、両社が経営統合を果たすことで本当に世界一の企業になれるのかを真剣に考えた結果の「勇気ある撤退」と見ることもできると思うのです。
企業買収は売り手、買い手の双方に膨大な労力がかかるため、経営者としてはある程度話が進んでしまうと後ろ向きの判断をしにくいという心理的作用が働きます。しかし、本来は、結論ありきではなく、「その企業を買うことで自社は本当に勝ち組になれるのか」という問いに確信を持って答えられる時にのみゴーサインを出すことこそ、買収後に売り手、買い手双方に不幸を招かない唯一の方法なのです。
今回は企業買収のプロセスにおける事業評価の留意点について考えてきました。次回は買収後に行われるPMI(Post Merger Integration)を成功させるためのポイントについて考えてみることにします。
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東京大学経済学部卒業後、国内大手証券を経てローランド・ベルガーに参画。自動車、化学、金融、総合商社、小売等の幅広い業界において、全社戦略、営業・マーケティング戦略、事業構造改革などのプロジェクトを手掛ける。システムベンダーをはじめとした事業精査や、クライアントの現場に入り込んでの再生支援の豊富な経験を有している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授