企業変革のヒントをドラッカーに求めるITmediaエグゼクティブ フォーラムで、ドラッカー学会監事の佐藤等氏はその効果と実践の必要性について話した。
ITmediaエグゼクティブは7月28日、「ドラッカーに学ぶ 人を生かし、企業に変革と競争力をもたらす戦略的コミュニケーション」と題し、第12回ITmediaエグゼクティブ フォーラムを開催した。基調講演を務めたのは、公認会計士 佐藤等公認会計事務所 所長の佐藤等氏。ドラッカー学会監事でもあり「ドラッカー経営思想の真髄―エグゼクティブの心得」というテーマで、昨今ひときわ注目を集めているドラッカー経営思想について講演を行った。
ドラッカーの経営思想を経営者がいかに受け止め、どう実践すればいいかについて説明した。
2009年がドラッカー生誕100年ということもあり、最近はドラッカーに関するさまざまな情報が世間に数多く出ている。ドラッカーの経営思想が再発掘されているようだという。ダイヤモンド社から出版されている書籍『もし高校野球の女子マネジャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が販売部数100万部を超えたことにも触れ、「ダイヤモンド社ではドラッカーの書籍をこれまでに多数出版していたが、その累計でやっと400万部程度だった。この本は、1冊だけであっという間に100万部を超えてしまい、ダイヤモンド社の中でも大騒ぎになっている」とのことだ。TVや雑誌でこの本が取り上げられたことも、ドラッカー人気にさらに拍車をかけている。
佐藤氏は、ドラッカーの書籍を読んでやる気が出た、うつが直ったという話を直接耳にすることがあるという。どうして人々がこのような読後感を持つのか、その理由は「ドラッカーの本が、自分のためにドラッカー氏がこの本を書いてくれたのかと錯覚させるところがあるから」だという。
なぜ読者がそのような錯覚を起こすのかと言えば、ドラッカーの書籍が「人」を中心に書かれているためで、そのことが人々の琴線に触れるからだと説明する。ドラッカーはコンサルタントであり、大学教授でもあったが、自らを書き手だと言っていたとのこと。書いてそれを人々に伝えることこそが、彼の本来行いたかったことなのだろう。
ドラッカーの記した言葉に「現実に原理を適用する」というものがある。佐藤氏は、これこそがドラッカー理論の真髄だという。現実とは、実際に目の前で起こっている事柄だ。原理というのは、解決の道具である。例えば、組織というのは、じつは道具にすぎない。人が社会に何らかの役割を果たすために組織は存在し、個人が成長し成果を上げるための道具だというのだ。
まずは目の前で起きていることが、いったいどういうことかを認識する。それができないと、対処するのにどういう道具(原理)を使うべきかが分からないからだ。自分の中にどれだけたくさんの道具があるかというのは、成果を上げるためには重要な要素となる。
これは、例えば自動車が動く原理を知らなくても、方法を知っていれば自動車は運転できる。しかし、自動車の原理を知っているほうが、よりうまく運転ができるのだ。F1のドライバーは当然自動車が動く原理を知っていて、あのような運転ができることになる。
ところで、世の中にはこの方法の部分を教える書籍はたくさんある。これはいわゆる”How To本”だ。How To本には原理が書かれていない。それゆえ状況が変われば、How Toは使い物にならない。原理を踏まえた実践こそが難しいのだ。佐藤氏はこの原理のことを、濃縮ジュースだと表現する。「ドラッカーの書籍は心に刺さるけれど、それをどう実践すべきかは分からないとよく言われる。われわれは原理という濃縮ジュースに水を入れて薄め、さらに氷を入れて飲まなければならないのです」と原理を学ぶだけでなく、それを実践してこそ初めて成果を得られると説明する。
現実を把握して課題化し、どの道具を当てはめればいいかを考える。そして、その道具を使って実践するということを、ドラッカーは記した40冊近い書籍の中で繰り返し唱えているとのことだ。
もう1つドラッカーが言っているのが、継続するためには変革が必要だということ。これもドラッカーの根本にある考え方だ。何百年と続いている老舗企業も、ずっと同じことをやっているわけではない。節目節目で確実に変革しており、それなくしては継続はありえなかったのだ。
組織が継続するためには、成果が必要でそれが中心になければならない。社会は組織で成り立っており、その組織は成果で成り立つ。つまり、成果がなければ社会も継続できないということになるのだ。社会、組織を成り立たせている人も、成果がないとやる気がなくなり、継続はできないと佐藤氏は指摘する。
ここから、個人にフォーカスした話が続いた。ナレッジワーカー、日本語では知識労働はと呼ばれるこの言葉は、ドラッカーが発明したもの。この対局にあるのが日本では肉体労働者という言葉。しかし、ドラッカーの書籍ではマニュアルワーカーと表現されニュアンスが若干異なる。
マニュアルワーカーは仕事が具体化されているため管理しやすいが、ナレッジワーカーの仕事は知的生産であるため、管理も監督もしにくい。逆に言えばナレッジワーカーは、成果を上げるべく自己で管理できなければならない。つまり、個人の能力を高めるだけでなく、成長し、成果を出すためにはセルフマネジメントできるようにする必要がある。個人の成果は、誰かほかの人が利用してくれて初めて本当に意味がある。
自分自身が成長するには「卓越性を追求すること」だと佐藤氏は言う。成長の種は自信。自信を得るには、成果を上げられるだけの能力がなければならない。能力を磨くには、卓越性を追求することが1つの方法だ。
「わたしはいま、ドラッカーについてブログを書いている。毎日書くと決め連続1600日を超えた。だいたい400を超えたあたりで自信になった」
高い目標を掲げ、それに向かってやり続けたことで、1つの自信を得ることができたというのだ。成長の仕組みは、自らつくることが大切だと付け加えた。
佐藤氏は、ドラッカーの書籍『経営者の条件』について、すでに40回も読んでいるとのこと。これは、本に書いてある知識は理解できていても、その実践がまだできていないからだという。この書籍の中には、エグゼクティブの心得となる、成果を上げる能力を身につけるための5つの条件が書かれている。
1. 時間を管理する
2. 貢献を重視する
3. 自らの強みを知る、生かす
4. 最も重要なことに集中する
5. 成果のあがる意思決定をする
自らの強みを知らなければ、強みがあってもそれを生かすことはできない。さらに強みを知っていても、それを生かしていない人が多い。強みを知れば、それを重要なことに集中させられるはずだ。「集中するためには過去を捨てること」と佐藤氏は言う。
これは経営者の条件の中にある「集中のための第一原則は、生産的でなくなった過去のものを捨てることである」とあるように、前に進むためには不要になった過去のものをいかに速やかに判断し、捨てられるかが鍵となる。ところが実際は、古いものをやりながら新しいものに取り組もうとする。「何か新しいことを行うには資源が必要であり、資源は組織にとっては人。人にとっては時間である」と佐藤氏は話す。時間を生み出すためには、何かを捨てる必要があるのだ。
「この5つを徹底してやる。組織で成果をあげるには、1人1人がやるべきことは何かを明らかにすることだ。組織の経営を考えた際には、よくあるやりたいこと仕事にしなさいというのは間違いだ」と佐藤氏は指摘する。まずは、時間管理を行うことになるがドラッカーの言う時間管理はスケジューリングのことではなく、時間そのものを管理することだと説明する。
「時間管理の基本は、記録することではなく記憶すること」と佐藤氏。細切れになった時間では大したことはできないので、なるべく大きな単位で時間を使えるように管理する。目標を達成するための時間を割り当てるという管理を行うのだ。
時間管理ができて自らの強みやなすべき貢献も理解できた状態は、自動車にすれば十分な燃料、良いエンジン、良いトランスミッションが準備できたことになる。「さてそのクルマでどこに向かいますか」と佐藤氏は問う。「どこに向かうか」が5つの条件の4番目と5番目にあたる部分だ。クルマであっちにも、こっちにも行くことができないように、意思決定も数多くはできない。せいぜい1つか2つであり、それを見極めることが重要だ。
この5つの条件を理解することはできたはずだが、それを実践するのは容易ではない。「理解はできた。それをやるかどうかは皆さん次第。実践することに軸足を置かなければ、成果には結びつかない」と佐藤氏は言う。そして、この日の講演のテーマであるドラッカーの経営の真髄について「現実に原理を適用する」ことだと繰り返し、これこそが今日最も皆さんに伝えたかったことだと言い講演を締めくくった。
ドラッカーに関する興味深い考察を佐藤氏の講演ITmedia Virtual Expoで視聴できる。
【経営戦略】パビリオンでは「ドラッカー経営思想の真髄―エグゼクティブの心得」をテーマに、佐藤等氏が講演します。最近何かがおかしいという素朴な疑念であり、その答えを出すことをドラッカーならば、あと押ししてくれるに違いないという期待がある中、ドラッカーの問題意識、時代認識、方法論から、今何が問題かを明らかにする。視聴登録はこちら。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授