時間に追われた顧客に売り込む方法海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/2 ページ)

» 2011年09月28日 08時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー,ITmedia]
エグゼクティブブックサマリー
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ナイキはチャンスを生かした

 オレゴン州のビーバートンにあるナイキ社の技術者は、会社の近くを走るランナーがiPodを聞きながら走っていることに気が付きました。そしてナイキ社はアップル社と協力してナイキ・プラス・スポーツ・キットを開発しました。これは無線センサーをナイキシューズの靴底に装着し、iPodにレシーバーを取り付けて使用するものです。

 走行距離やペース、消費カロリーを記録することが出来ます。同じことができる製品が他にもありますが、幅広く普及しているiPodにはかないません。また、ナイキのウェブサイトに繋げることもできません。ナイキのウェブサイトでは、過去の自分の記録や、他のユーザーの記録と比較することができます。

 ナイキがこの独創的なアプリケーションを使って顧客とのコミュニケーションを向上させると、ランニングシューズの市場シェアが13%に拡大しました。ナイキは、シューズそのものではなく、ランナーがシューズを履いてどのような時間を過ごすのかに焦点を当てたことで、差別化に成功したのです。

 今日、消費者は製品やサービスの検索や購入に、起きている時間の3%以下しか費やしていません。これは企業間取引市場でも良くない数字が出ています(労働時間の10から15%)。しかし、それでも、市場はかつて無いほど大量の製品やサービスを提供しているのです。

 自社の「時間的価値取引」の分析に時間をかけ、注意を払って下さい。製品やサービスには、そのものの価格や消費者が探して購入するのに費やす時間以上の価値がなければなりません。今日の顧客の多くは、オンライン上で提供されている無料サンプルを注文することすらしません。なぜなら、時間が掛かり過ぎるからです。

 ナイキの話は興味深いですね。走りながら音楽を聴くのか、音楽を聞きながら走るのかどちらが主か定かではありませんが、「時間」という価値をさらに高めるために「ながら〜」が出来るのは重要なことなのかも知れません。時間の価値を逆手にとった画期的アイデアだと思います。

タイモグラフィック分析で消費者を理解する

 「タイモグラフィック分析(Time-ographics analysis)」を使って、消費者が自社製品の評価や購入に費やす時間や、注ぐ関心を理解して下さい。タイモグラフィック分析は、「モチベーション(長い時間をかける行為」、「習慣(自動的に行う行為)」、「利便性(時間の節約のための行為)」「価値(最も時間が短い行為)」の四象限で顧客を分析するものです。マーケターのほとんどが、モチベーションの象限を抑えようと労力を注ぎますが、多くのブランドにとって安定したポジションではありませんし、関心の拡散が起こりやすい場所です。

 つまり、イノベーションを次々と起こし顧客の関心を引き続けない限り、顧客の興味は時間とともに薄れて行ってしまいます。また、消費者は習慣の象限の中で一日の内長い時間を過ごします(例えば、仕事の行き帰りの車の運転)。しかし、習慣的行動は自動的に行われるもので、意識的に考えたり、注意をしたりすることはほとんど、あるいは全くありません。

 その反対に、消費者は利便性の象限では最小限の時間しか費やしません(意識は集中させていますが)。ファストフード店やフェデックス社の配送にとっては、それが利便性の最も重要な点です。価値の枠では価格が全てを動かします。この枠の中では消費者は極めて少ない時間しか注ぎませんし、ほとんど注意を払いません。

 タイモグラフィック分析の結果に従って製品やサービスの売り込みを行って下さい。その際、最も適切な宣伝手法を使うことが重要です。製品の特性ではなく、イノベーションや製品の「時間便益」を売り込みましょう。タイモグラフィック分析は活動を促す消費者行動に焦点を当てたものです。もし消費者があなたの会社の製品を時間的価値取引において高く評価しなかった場合、細分化された生活の中であなたの製品のために時間を費やしてくれません。次の4つの要素が、消費者の時間の使い方に影響を与えています。

影響の要因を知る!消費者の時間の使い方4パターン

 1、時間認知:人は、何かをする時、それにどのくらい時間がかかるのか、効果的に認知していません。

 2、時間選好:ある特定の行為(例えば、新車を見ること)が好きな消費者は、それに長い時間を費やします。しかし、嫌いな行為(例えば、食料品の買い出し)には、それほど長い時間をかけません。

 3、時間制約:時間が無くて急いでいる消費者は、あなたの製品を無視していくでしょう。

 4、きっかけの出来事:きっかけがあれば、人は物を購入します。

 タイモグラフィック分析……とても興味深いマーケティングの1つですね! 「時間」という軸のなかで消費者行動を観察するものですから、確かに時間に対しての観念から消費者心理を考えていく事は現在において重要な事かもしれません。

 あなたの会社の製品はタイモグラフィック分析のどの象限に当てはまりますか? どの象限が会社にとって最も重要ですか? 次のような質問の答えを考えることで、「状況タイムライン」を作って下さい。顧客はどれくらいの時間を特定の活動に費やしていますか? その活動を行う頻度はどのくらいですか? その活動にもっと時間を費やせない理由は? その活動をする時間をより短くさせる要素があるとすれば、それは何でしょう? 自社製品を顧客の生活から追放してしまう「競合する活動」とは何でしょう? 

 また、自社の典型的な顧客の関心が持続する時間を調査して下さい。顧客はマルチタスクを行っていますか? 同時に複数のテクノロジーを使用していますか(例えば、テレビ視聴、ネットサーフィン、電話での通話など)? 消費者は同時に複数の象限の中で活動している可能性もあります。自社のタイモグラフィック分析における立ち位置を調べてみる必要があるでしょう。それを把握することが新しい活路が見えてくるかも知れません。

 製品を検証し、時間と関心に関する消費者の傾向を分析して下さい。将来、どのように顧客を引き付けるか計画を立てて下さい。そして、次の3つのテクニックを使って新しい時間と関心のパラメーターを作って下さい。

パラメーターをつくる3つのテクニック

 (1)時間的価値を上げる(あるいは時間的コストを下げる)――消費者があなたの店内やウェブサイト内で過ごす「滞留時間」を生み出して下さい。例えば、食料品店では、パンや牛乳などはお店の奥の方に陳列しており、それによって、顧客は店内を端から端まで歩かなければならなくなっています。また、ネット通販会社は、「本日のお買い得品」を出すことで、閲覧者をサイト内に引き留めようとしています。「瞬時の満足感」を与えるのも、もう1つの手段です。ネット通信会社は、事前承認した顧客に「ワンクリック購入」サービスを提供することで、この手段を活用しています。

 (2)時間の使い方を見直す――「時間の小分け」が1つの方法です。例えば、アヴェル社はプラダやルイ・ヴィトンなどの高級ブランドの製品を、購入は出来ないが短時間だけ使いたいと言うファッションに関心のある顧客にレンタルしています。

 (3)購入と消費の流れを変える――消費者は一般的に、「認識、考慮、選択、購入」という流れで商品を購入します。しかし、最先端の企業は今、消費に購入を組み込んでいます。アマゾン社はこの方法を使ってキンドルの電子書籍読者を開拓しています。また、購入と消費の順番を入れ替えている企業もあります。例えば、ウォールストリート・ジャーナル紙は無料で読めるオンライン記事を提供すると同時に、料金を支払って登録することで特別な記事が読めるサービスを提供しています。オンライン技術は、製品やサービスを売るための、今までは無かった全く新しい機会を提供しています。

 考えて見れば、ここに書かれていることは決して斬新なアイデアではなく、どんな企業もごく当たり前に行っていることのように思います。むしろそれを再度レビューして認識するようにしてみることです。

著者紹介

エイドリアンC・オットは、企業戦略家であり、エクスポネンシャル・エッジ・インク社の創設者およびCEOです。大学や産業イベントで定期的に講演を行っており、ファスト・カンパニー誌、ストラテジー&リーダーシップ・ジャーナル誌などの主要出版物に寄稿しています。ヒューレット・パッカード社の重役を15年間務めました。ハーバード大学でMBAを、カリフォルニア大学で理学士号を収めました。


プロフィール:鬼塚俊宏ストラテジィエレメント社長

鬼塚俊宏氏

経営コンサルタント(ビジネスモデルコンサルタント・セールスコピーライター)。経営コンサルタントとして、上場企業から個人プロフェッショナルまで、420社以上(1400案件以上)の企業経営を支援。特に集客モデルの構築とビジネスモデルプロデュースを得意とする。またセールスコピーライターという肩書も持ち、そのライティングスキルを生かしたマーケティング施策は、多くの企業を「高収益企業」へと変貌させてきた。


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