企業人よ、大いに失敗しろ、むしろ成功するなかれ!? (その1)生き残れない経営(3/3 ページ)

» 2011年12月12日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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失敗を生かすためのアプローチ方法

 一方、失敗を生かすための組織としてのアプローチの方法である。失敗した場合、責任のなすりあい、責任の回避に陥りやすいことは、上記例からも分かる。

 上掲のエドモンドソン教授も主張しているが、失敗を生かすためには、

 1、何よりもまず、組織が失敗を受け入れる企業風土を作らなければならない。ただ失敗を受け入れると、何をしでかしても構わないとか、その責任を問わなければベストを尽くそうとするかなど、職場規律が緩んでミスを誘発しないかという心配がある。

 しかし、(1)真に非難されるべき失敗がどの位あるか。例えば能力不足による失敗なら 教育の必要性を示唆するし、プロセスの複雑さによる失敗ならその改善を示唆している。非難されるべき失敗は、故意による失敗くらいだろう。(2)失敗はできるだけ早く発見して修正し、そこから学習することで次の成功を呼ぶことができる。

 従って失敗を受け入れる企業風土で職場規律が緩む心配は無用だ。そしてその企業風土作りは、トップの仕事そのものだ。トップ・経営者に強く自覚を促したい。

 2、失敗から学ぶ文化を築かなければならない。失敗が発生した時、「誰が失敗したか」ではなく、「何が起こったか」を追求しなければならない。常日頃の経営現場では、失敗が発生した時必ず「誰だ!」と問う。「何が起こったか」を追求すれば、失敗を学習するきっかけになり、おのずと当事者が浮かび上がる。これも、トップの仕事そのものだ。

 3、次に、失敗から学ぶための方法論だ。エドモンドソン教授が挙げる興味深いケース、7人の宇宙飛行士が亡くなったスペースシャトル・コロンビアの爆発事故がある。

 失敗から学習するための重要な方法は、失敗の発見と分析である。

 (1)まず「発見」だが、スペースシャトル・コロンビア爆発事故が他山の石だ。発射時に発泡断熱材の破片がシャトル左側から脱落したが、NASAマネージャーはその深刻さを軽視した上に、技術者たちの問題提起を無視し、失敗を発見できなかった。事後分析では、失敗を認めて手を打てば効果的対策を打てた可能性は十分にあったという。

 即弊害をもたらさない失敗や隠蔽可能な失敗を、大惨事にならないうちに発見することが重要だということだ。早期発見の手法としてTQM(総合的品質管理)やHRO(高信頼性組織)の構築法などあるが、最も基本的にして肝心なことは企業内で悪い報告を表沙汰にしたくないという風潮をなくし、悪い報告でも歓迎し、オープンに議論をする雰囲気や風土を作ることである。これもトップの姿勢如何だ。

 (2)次に「分析」だが、分析をして原因を究明することが次につながるのに、失敗の分析は敬遠される。なぜなら失敗を徹底して調べられることは不愉快だし、組織的に動くことが煩わしいからだ。先にあげたような他責的や無責的という心理的わなにはまりやすいのだ。このわなを排除しなければならない。さらに、直接的原因に加えて、2次的原因の分析究明も必要だ。コロンビア爆発事故について各分野の専門家によるチームが分析した結果、直接的な物理的原因の他に、NASAの硬直した組織とスケジュールに固執した文化のために確信できること以外は口にしないという2次的原因も確定したという。分析から逃げず、2次的、3次的原因も究明するには、複数のメンバーによるチームを設置すると良い。

 失敗は、次の成功に結びつく。失敗を生かすには、失敗を反省し忠告しさえすればよいという間違った認識を払拭し、失敗を正しく認識しなければならない。即ち、失敗の責任を回避したり失敗の仕打ちに執心したりせず、自己分析をし、政治的認識力を培う。

 組織的には、失敗を受け入れる組織風土、失敗から学ぶ企業文化を構築し、失敗から学ぶために失敗の「発見」と「分析」が必要で、その仕組みを作ることだ。

 そうすると失敗から多くを学ぶことができ、「失敗」大歓迎だ。

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。

その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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