それでは相手に気付いてもらうためにはどうしたらいいでしょうか。
「正論では人は動かない」流通関係企業の女性管理職の人が言っていた言葉です。「いくら正しいことを言っても、日々のコミュニケーションで信頼関係が培われていなければ、相手は自分の話した通りに、行動してはくれません。やはり日々のコミュニケーションを積み重ねることが欠かせないのです。」
管理職の彼女が売り場に出たら欠かさずすることがあるそうです。売り場を一周し、そこにいる人すべてに挨拶をすること。売場には社員もいれば取引先から派遣された人もいる。しかし売場で接するお客さまはその区別が分からない。同じような気持ちで接客をしなければ、せっかく買い物に来たお客さまを失望させてしまう。人の入れ替わりも多い職場で日々挨拶をし、顔を覚えてもらう。そのようにコミュニケーションを積み重ねることで、何かを言わなくてはいけないときには、聞く耳を持ってくれると言います。
なお、やはり人は血が通っている生き物。厳しいことがずっと続くとうんざりするものです。ときにユーモア、面白さや楽しさ、癒しを織り交ぜることが大切です。
ある経営者が言っていました。
「最後に、激励だけでなく、癒しの仕掛けも必要です。いつも厳しいことばかりを言っても人はついてきません。遊びや笑いが必要だと思っています。わたしは、四半期ごとにお菓子とメッセージカードを配りました。」
その経営者が四半期ごとに配るお菓子やメッセージカードには遊び心がたくさんあります。会社の主力商品で売上を伸ばしたいと思っている商品の名前にちなんだお菓子を日本全国から探し出し、メッセージを添えて配ったとか。真剣にやるときもあるけれど、遊び心を入れるのが大事。このような下地があってこそ、いざというときに、必死さが伝わり、行動を促すことができるそうです。
世界的に有名な家具店の日本法人の経営層の一人であり、大型店の店長を務めている人は「店長は組織図の中で一番下、三角形の一番下に位置します。わたしは自分のチームを支えるためにいて、その上にスタッフがいて、最終的にはお客さまを支えたい、そんな風に考えています」と言います。
リーダーとは組織の三角形の下にいるもの。ハードとソフトを組み合わせ、ときに遊び心を入れながら、コミュニケーションをしていく。それがスマートリーダーに求められているのです。
今回は「正論で人は動かない―ソフトとハード」ということに焦点を当てました。次回は、「アサーティブ」について話します。
林正愛(りんじょんえ)
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ、ファイナンシャルプランナー、英検1級、TOEIC955点。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。British Airwaysに入社し、客室乗務員として成田―ロンドン間を乗務。その後中央経済社にて経営、会計関連の書籍の編集に携わった後、日本経済新聞社に入社し、経営、経済関連の書籍の企画および編集を行う。2006年4月に退職し、「眠っている才能を呼び覚ませ」というミッションのもと、優秀な人たちが活躍する場を提供したいという思いから、同年10月にアマプロ株式会社を設立。仕事を通じて培ってきたコミュニケーション力や編集力を活かして、企業の情報発信をサポートするために奔走している。
企業の経営層とのインタビューを数多くこなし、その数は100名以上に達する。その中からリーダーの行動変革に興味を持ち、アメリカでエグセクティブコーチングの第一人者で、GEやフォードなどの社長のコーチングを行ったマーシャル・ゴールドスミス氏にコーチングを学ぶ。現在は経営層のコーチングも行う。コミュニケーションのプロフェッショナルが集まった国際団体、IABC(International Association of Business Communicators) のジャパンチャプターの理事も務める。2012年4月からは慶応義塾大学メディアデザイン研究科でも学ぶ予定。著書『紅茶にあう美味しいイギリスのお菓子』(2000年、アスペクト)。2児の母。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授