優れた個人が集まり、コラボによってより大きな成果を発揮する気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2015年09月16日 08時00分 公開
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中土井 「ひとかたまり」であることは、個人が能力を発揮しやすく、伸ばしやすいという点でも重要なわけですね。

羽物氏(右)と聞き手の中土井氏(左)

羽物 はい。コンサルタントには経験の差もありますし、得意分野も違います。でも、それぞれがプロフェッショナルとして仕事を担うので、仲間を尊重して仕事をしていくべきだと思っています。私自身、先輩だから、上司だからという理由だけでぺこぺこしながら働く姿がイメージできなかったですし、そういう40代、50代になるのは嫌だったのです。そのため、代表である自分も含めて、全員がプロフェッショナルとしてお互いを尊重し合える組織がよいと考えています。

 また、コンサルタント事業は人が商材です。人は、財務諸表には載りませんが、会社の貴重な資産です。そのため、常に人が必要ですし、雇った人を大切に育てたいと思っています。その点においても、コンサルタントの自主性を育める組織環境にすることが重要だと考えています。自主性が高いほど、個人が自分の能力を磨く意欲が高まりやすくなるでしょう。組織内においてもお互いの能力を認め合えるため、個々の力を生かしたコラボレーションも生まれやすくなります。これによって大きな力が生まれれば、クライアントにも喜んでもらえますし、感謝されるという「やりがい」も大きくなります。

中土井 個人を自立させるだけではなく、コラボレーションさせることや、しやすい環境を作ることがポイントということですね。

羽物 そうです。個人が1人でやれることには限界がありますし、視野や発想も広がりません。コラボレーションは、そのパラダイムの外に出る手段といえるでしょう。実は、パラダイムの外に出る重要性は前職のころから認識していました。ただ、その方法が分からなかったのです。

 当時の私は、部下の業務をカバーすることが上役の役目だと思っていました。部下ができないことは自分が全部カバーすればいいのだと。しかし、中堅になるにつれて忙しさが増します。1人の力では立ち行かなくなることもあります。そんな時、まわりの力を借りたら、自分とは違う方法や発想で解決できました。予想外の良い結果になったこともありました。つまり、単純なことなのですが、自分のパラダイムの外に出たいのなら、他人に任せればよいのです。その経験から、コラボレーションによって生まれる相互作用に関心が高まり、優れた個人がコラボレーションしている状態を美しいと感じ、自分が目指したい組織の形も明確になりました。

成果は大切、プロセスはもっと大切

中土井 自主性が育まれ、社内コラボレーションが活性化するほど、事業のアイデアや発想も多様化が見込めますね。

羽物 そうですね。例えばいまインドに子会社を設立する話が進行中ですが、これはコンサルタントの1人が発案し、手掛けています。また、東京ヴェルディとの資本・業務提携を行いましたが、これもコンサルタントの発案でスタートしました。しかし実は、会社の設立当初は「自由にいろいろやっていいよ」とこちらが言うだけでは、新しいことがあまり起きなかった時期が続いていました。

 そんなときに、退職を決めた社員から「いろいろ自由にやってよいと言うが、羽物さん自身のやりたいことを示してくれないと」と言われました。「やりたいことあったら言ってね。後押しするから」というスタンスは、一歩引いた感じだったのでしょうか。その言葉を聞いてから、自分で興味のある事業は自ら発案して進めるようになりました。翻訳出版を共同事業として行ったり、若手起業家を応援する起業チャレンジプログラムを始めたり。自分自身もこの組織の一員として自主的に事業アイデアを実現しました。いわば「そうか、自分もルパンになってよいのか」と思うようになりました。これも一つのパラダイムの変化ですね。

 マネジメントという点では、そういう発想がコンサルタントの中から自然に生まれ、まわりを巻き込んだコラボレーションが生まれる会社に成長させていくことが理想です。もちろん成果は大切ですが、個人的には、ルパンたちが盗み出す宝石よりも、盗み出すために知恵を出し合うプロセスに関心があります。自由にコラボレーションできる環境を作り、「成功を創造する。成功体験を共有する。」そういう会社にしたいと思っています。

対談を終えて

 120人規模の会社というのは世の中にいくらでも存在していますが、外資系ではなく、コンサルティング会社として一から創業し、しかも物販などを行わずに純粋にコンサルティングだけで100人を超える規模の会社はほとんどありません。それの理由はひとえに中小零細企業においては、人材の採用も育成も難しいために、知的資産だけで事業を行うことが困難を極めることにあります。羽物さんのチームに対する哲学がコンサルタントの成長を促し、かつ定着を可能にしているのは間違いありませんが、それ以上に、羽物さんのオープンでフラットなあり方が可能にしているように感じます。

 文字や言葉では伝わりにくい、リーダーシップの本質がそこには存在しているような気がしてなりません。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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