プロジェクトに参加したメンバーには、たとえ小さくてもいいので担当領域を持ってもらう。スキルが十分高くなる前は、「取扱商品ごとの在庫管理方法を調べて一覧にしてください」といった小さめのタスクになるが、「ここは自分の領域」を持つことが重要なのだ。「先輩から降ってきた雑用をこなす」というスタンスで仕事はさせない。
この「ここは自分の領域だ。この仕事が成し遂げられることは、自分の責任として担保せねば」という感覚をOwnershipという。勘違いされやすいのだが、Ownershipは「100%自分一人でやりきること」ではない。逆にスキルの高い人に手伝ってもらってでも、他の組織に動いてもらってでも、何でもいいのでやり遂げることに責任を持つことだ。
この、「自分の責任を果たすために人を動かす」という経験の積み重ねが人を育てる。というよりも、そもそもリーダーシップとは目的達成のために人に影響を与えることなので、それがリーダーシップそのものなのだ。たとえスケジュール調整や一覧表作成のような小さな仕事であれ、人を動かすコツをつかんだ人は、Ownershipを持つ仕事をどんどん大きくしていける。
変革プロジェクトは「コンプライアンス的には……」などは最後に考えればいいのであって、結局の所、「会社をこうしたい」「俺はこう思う」から始めるものだ。もちろん現状をしっかり調査して誤った思い込みは正していくが、プロジェクトに集う人々の意志がなければプロジェクトはスタートしない。
だが、正しいことを言うのは得意だが、仕事に思いを込めるのが苦手な人が多い。そこでプロジェクトの立ち上げ合宿では、プロジェクトでやりたいことを大きな紙1枚にまとめて発表してもらう。新入社員からちょっと偉い管理職まで、同じ条件で。
リーダーとは「会社をこうしたい。社会をこうしたい。一緒にやろう」と行き先を示して人々をまとめる人のことである。入社3年目くらいの人でもスラスラとできる人もいれば、20年目のベテラン管理職でも、できない人もいる。だからこうして無理やりにでもOpinionを表明する機会を作り、訓練していく。
思いはあれどもうまく伝えられない人も多いので、私たちコンサルタントが対話を通じて言語化を手伝うときもある。そうやっておのおのが出したOpinionを見せあい、お互いへの理解を深めたり、自分にはなかった観点に気付かされたり……といったことを通じて、単に辞令で集められたプロジェクトメンバーが「会社を変革する同志」に変わっていくのだ。
人は知らず知らずのうちにかなりのプレッシャーを感じている。「ちゃんとしたふるまいをしないと」「上司や先輩を立てないと」「部署の方針とズレたことをしないように」「成果出さないと」……。私たちがプロジェクトをやる際は、あの手この手でこうしたプレッシャーを解き放つ。
先ほど書いた「管理職であろうとも、他の社員と同じようにOpinionを紙に書いてもらう」も、他の社員が自分の考えを積極的に開示するに当たっての心理的ハードルを下げる効果もある。
会議の最初の5分で「スタバのロゴを何も見ずにお絵かきしてください」というアイスブレーカーをやることもある。単純に笑えるからだが、ものすごく下手くそな絵を他人に見せることで、仕事においてもオープンに振る舞えるようになる。
プロジェクトルームとして、会議室を専有させてもらうのも、心理的安全性のためだ。変革プロジェクトというのはやったことのないチャレンジを手探りで進めるのだから、時に堂々巡りの議論になってしまったり、資料にダメ出し食らったり、はたから見てかっこ悪いシーンも多い。また、もともと所属していた部署の上司がプロジェクトの方針に口を出してくるのは日常茶飯事だ。
だから人目を気にせずにチャレンジしたり、一つの部署の意向よりも全社最適を考えたりすることができるし、こういうスタンスで仕事することが成長に直結する。
ということで3点に絞ってプロジェクトでリーダーを育てる際に気を付けるべきポイントをあげた。
「リーダーが育つ 変革プロジェクトの教科書」では、以下の10の原則を掲げている。この記事ではその中からOWNERSHIP、OPINION、PEACEを紹介した。本書は10原則の解説本というわけではなく、実際に私たちがお客さんと実行したプロジェクトの実例やその際に使用したフォーマットなどを盛り込んだ、実務書である。それらを実践する中で、自然と10の原則にあふれた人が育つプロジェクトにすることができる。
リーダーを育てるためにも、変革プロジェクトを成功させるためにも、読んでみてください。
1、OWNERSHIP
⇒リーダーシップを発揮すべき「自分の担当領域」を全メンバーが持つ
2、CHALLENGE
⇒プロジェクトも個人も、はじめてのことに取り組む
3、OPINION
⇒「オレはこう思う、こうしたい」の表明から始める
4、FACILITATION
⇒他人の意見を引き出し、整理し、合意し、推進する
5、PROCESS
⇒正解を知っていることよりも、前に進めるプロセス構築力を重視する
6、OPEN
⇒情報を開示することが、助け合うことの第一歩
7、TRIAL
⇒まず試し、失敗して学ぶ
8、PEACE
⇒OPINION、OPEN、TRIALの基盤は心理的安全性の確保
9、FEEDBACK
⇒「こう見えるよ」を贈り合い、自ら振り返る
10、RESPONSIBILITY & HAVE FUN!
⇒「必ずやり遂げる責任感」と「楽しいからもっとやる」の両立
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ バイスプレジデント。一橋大学経済学部卒。
中堅ソフトハウスでシステム開発を経験後、2000年ケンブリッジに転職。以来、IT投資計画策定、人事、会計、販売管理、顧客管理、ワークスタイル改革、全社戦略立案など、幅広い分野のプロジェクトに参加。
プロジェクトをやりながらリーダーを育成することと、ファシリテーションが武器。
コンサルティングモットーは「空気を読まず必要なことを言う」と「Have Fun!」。
著書は「反常識の業務改革ドキュメント」「業務改革の教科書」「会社のITをエンジニアに任せるな!」「リーダーが育つ 変革プロジェクトの教科書」
ブログは「プロジェクトマジック」。
趣味は自転車。ランドヌール10000。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授