コロナ禍の今こそDXでビジネスモデルを見直す好機――ANA 野村泰一氏デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)

» 2021年05月11日 07時07分 公開
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DXの本質は、役割、行動、デザインを変えること

 「一般的にDXは、テクノロジーを使ってビジネスを変革することと定義されています。しかしこの定義だけでは、古くはSISとか、BPRとかいわれた時代とメッセージ的には大きく違いはありません。個人的には、IT部門が新たなナレッジを持つことを前提に、役割を変え、行動を変え、さらにデザインを変えることだと思っています」(野村氏)。

 これまでのIT部門は、システム開発におけるQCDの順守と安定的なシステム運用を主な役割としてきた。もちろんこの役割は、現在でも重要だが、担当しているシステムがカバーしていない業務は対象外と思ってしまったり、案件ベースでしかテクノロジーを追いかけなかったりすることが課題になる。

 市場にどのようなテクノロジーがあり、ほかの業界ではどのような使い方で成果を上げているのかに関心を持つべきであり、構築したシステムから生まれるデータをもっと生かすことにもこだわるべきである。課題を抱えている現場の仲間と直接的に対話をしながら、IT部門がすべきことを検討する意識やマインドも大切になる。

 野村氏は、「コミュニケーションパスを増やすために、社内向けのSNSを展開したり、ワークショップを実施したりしています。IT部門を昔のイメージで捉えている人は、まだ多いのですが、SNSには現時点で5100人が参加しています。こうした取り組みが、未来を作っていくのではないかと感じています」と話している。

人財のデザインによりDXが生まれる風土や土壌を醸成

 「2017年に未来の絵を描きましたが、その絵のほとんどは2020年に実現しています。そこで2020年末にIT部門の5〜6人のリーダーたちと合宿を行い、次に何をすべきかをテーマに話し合いました。未来のためのキーワードもいくつかありましたが、最も議論に時間を割かれたのは人財についてでした」(野村氏)。

 これまでのIT部門は、アプリケーション開発、インフラ管理、プロジェクトマネージャという3つの人財タイプで考えられてきた。野村氏は、「この数年やってきたこと、そして未来にやろうとしていることは、3つの人財タイプには当てはまりません。エンジニア、デザイナー、サイエンティスト、プロモーターなど、これまでとは異なる人財像が必要だという結論になりました。こうした議論はとても大切です」と話す。

 決められた案件を実現するだけなら、旧型の人財タイプでもよいが、未来を先取りしながら自分たちのあるべき姿をどうするかを考える場合には、デザイナーやサイエンティストなどの人財タイプが必要になる。仕組みのデザインだけでなく、人財のデザインをしていくことも必要だ。

 IT部門において、この案件は何人月など、工数に置き換えられることが多いことも課題の一つ。作り手である人の成長を喜ぶような土壌を創り人財をデザインすることで、DXが生まれる風土や土壌を醸成することができるようになる。

 「ドラえもんでは、“どこでもドア”や“タケコプター”などの道具に注目が集まりがちですが、注目すべきは、ドラえもんとのび太君が何でも共有して、話し合える土壌があることです。ドラえもんが、常にのび太君に適切な道具を出すことができるのは、のび太君との関係や風土が出来上がっているからです。DXも同じで、使う側も、創る側も、人が主役である仕組みをデザインすることが重要なのです」(野村氏)。

聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)

Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在は企業向けIT分野のエグゼクティブプロデューサーを務める。


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