人の感性とデジタルのバランスで商品やサービスの変革へ ―― 三井農林 佐伯光則社長デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)

» 2022年07月19日 07時02分 公開
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 デジタルテクノロジーの活用は、三井農林にとって必要不可欠な取り組みだが、それが全てではない。佐伯氏は、「DXは目的ではなく、あくまでも手段のひとつです。目的は、お客さまのニーズの変化や多様化する価値観に迅速かつ柔軟に対応することです。それを実現するためのアプローチがDXです。デジタルテクノロジーの活用は有力な選択肢であると同時に、デジタルでビジネスを変革できなければ、市場におけるトップの地位を失いかねないという危機感も感じています」と話す。

 さらに三井農林が、ECサイトやSNSをテコにDXを推進しているのは、良質な顧客接点をベースにした顧客起点の価値創造を実現したいという狙いがある。ECサイトやSNS上でアンケートやファンミーティングなどを実施することで、双方向のコミュニケーションが可能になり、新たな価値の認識や良質化を実現することが期待できる。食品業界におけるDXについて佐伯氏は、次のように話す。

 「お客さまから支持されることで、紅茶市場でトップの座を維持していますが、これは過去からの積み上げで築き上げてきた財産です。価値づくりが時代によって変化する中、対応を誤ればその財産もあっと言う間に失いかねません。今、ECサイトやSNSを活用して、お客さまと直接つながる価値を改めて実感しているところです。デマンドプル型でお客さまの声を迅速に取り入れ、PDCAサイクルを高速に回すことが今後の課題だと感じています」(佐伯氏)

モノからコトへ、さらに「ライフイノベーション」へ

 今後の三井農林が目指す姿について佐伯氏は、「紅茶の会社、モノの会社というだけでなく、コトの会社、さらにその先のサービスの会社、お客さまにより一層の付加価値を提供できる会社になりたいと考えています。社内では、“ライフイノベーション”と呼んでいますが、それを意識しながら価値創造を推進していきます。国内でそのプラットフォームが実現できたら、同様のアプローチでアジア諸国に展開し、さらなる成長を目指します」と話す。

 また、ウェルネスやサスティナビリティの分野への意識が高まっていることから、創業から何十年も積み上げてきたお茶を中心とした研究開発の延長線上で、顧客のニーズを満たす商品、サービスを開発し、価値創造に貢献することを目指している。

 味はそのままに、一時的なストレスや疲労感を緩和するGABA入りロイヤルミルクティーや、夕方の脚のむくみ、手などの表面温度の低下を軽減するヒハツ由来ピペリン類プラスレモンティーなど、日東紅茶初となる機能性表示食品の開発にも取り組んでいる。

 「われわれが提供するのは嗜好品なので、基礎食品に比べてバラエティに富み、ストーリーも書きやすく、付加価値も提供しやすくなっています。そのアドバンテージを、うまく事業の拡大につなげていきます」(佐伯氏)

 2021年には、組織改革も実施している。組織改革に向けた課題のひとつだったのが、開発は開発、企画は企画、営業は営業といった縦割りの意識が強かったことだ。そこで横串で各組織をブリッジすることを意識した組織改革を実施している。

 「各部門の理屈や考え方、業務プロセスなどがありましたが、これを標準化することが重要で、数字やAIの活用、データ分析の結果などに基づいて納得してもらうように取り組みました。これにより、横展開がしやすい組織の最適化を実現できました。食品業界では、五感を重視することが大事ですが、五感に頼りすぎると思い込みによる商品開発やアクションにつながってしまいます。それを防ぐ意味でも、AIの活用やサイエンスアプローチが必要でした。人とデジタルのバランスにより、商品やサービスの良質化を一層進めたいと考えています」(佐伯氏)。

聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)

Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在は企業向けIT分野のエグゼクティブプロデューサーを務める。


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