リーダーが身に付けたい「耳の痛い話」を伝えるためのマインドセットとスキルセットビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2024年03月07日 07時07分 公開
[難波猛ITmedia]
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「ネガティブフィードバック」を行うためのスキルセット

 フィードバックでは、リーダー自身の気持ちを整えるマインドセットと合わせて、実際に部下の行動変容を促すスキルセットも重要です。

・合意(コミットメント)を得る

 一方的な指示や指摘だけでは部下は納得せず行動が変わりません。リーダーから発生しているギャップを伝えたうえで、「会社の期待と、自分の行動や成果にギャップが存在すること」自体に合意が得られるまで対話を続けましょう。

 ギャップの存在自体に合意が得られたら、次は「ギャップを埋めるために行動すること」「具体的な行動計画」を合意できるまで対話します。

 「業務なのだから合意なんて不要」と考えるリーダーもいるかもしれませんが、人間は「自分で決めた事に動機付けされる」という自律性の欲求があります。やらされ感では長期的な行動変容につながらないので、自分で考えて決めてもらう事が重要です。特に、自己評価が高く上司評価とギャップがある部下とは粘り強い対話が必要です。

・不協和を創る

 とは言え、ギャップを伝えられた部下が喜んで合意し、改善にコミットする事は稀です。「納得できない」「なんでそんな事を言われるのか」「言われた通り真面目にやってきたのに」など、不満・不安・怒りなどのネガティブな反応をする部下もいます。

 リーダーとしては、こうした部下のネガティブな反応を避けたい気持ちもあるかもしれませんが、これは行動変容に必要な「認知的不協和」です。

 人は「現状で問題ない」という認知の時は行動を変えません。周囲から「現状に問題がある」という別の情報(認知)を与えられることで居心地の悪さ(不協和)を感じ、「このままではマズい」と行動の選択を始めます。

 部下のネガティブな反応は、実は「リーダーのメッセージがしっかり伝わった」ポジティブなサインです。嫌がらせではない事実に基づくフィードバックで、不協和を創ることが重要です。

・性格ではなく行動

 ギャップが生じている部下に対して、リーダーは「主体性が足りない」「仕事に責任感を持ってほしい」など性格面に目を向けがちですが、性格面の言及には2つのリスクがあります。

 1つ目はパワハラのリスク。性格面に目を向けると、「私は主体性がない人間だと言われた」と相手の人格権の侵害にあたる危険性が高まります。

 2つ目は部下の行動が変わらないリスク。「責任感のある仕事」と言われても部下は具体的な行動に移せません。

 リーダーとしては、「主体性が足りない」と判断するに至った「具体的な行動」を分析して、その行動についてフィードバックしましょう。

 例えば、「会議で自分から発言することがない」ことが主体性不足と感じるなら、その旨を伝えます。次回から部下が会議で発言するようになったら、しっかり承認して動機付けていくことで、部下は徐々に会議以外の場でも発言が増えていくはずです。

 性格をいきなり変えようとせず、問題になっている行動を改善することで周囲の評価も変わり、リーダーや周囲に認められることで徐々に部下の意識も変わっていきます。

「ネガティブフィードバック」は部下の未来へ向けた支援

 ギャップを伝えることはリーダーにとって心苦しいですし、伝えられる部下も不快かもしれません。ただ、そのギャップを放置することは部下の成長を阻害し将来のリスクにつながります。

 リーダーとして部下が良い人生を歩むことを願うなら、真摯(しんし)なフィードバックを恐れず提供してあげましょう。中長期的には、自分の成長に必要な対話をしてくれたリーダーに、多くの部下は感謝するはずです。

著者プロフィール:難波猛(なんば たけし)

マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント

プロティアン・キャリア協会認定アンバサダー/人事実践科学会議事務局長/日本心理的資本協会理事/NPO法人CRファクトリー特別アドバイザー

1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て2007年より現職。研修講師、コンサルタントとして3000名以上のキャリア開発施策、2000名以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトにおけるコンサルティング・研修等を担当。セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。


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