――大切にしている信条、価値観、言葉などあれば聞かせてください。
IT投資も、ビジネス上の選択もそうですが、「これが正解」というものはないと思っています。大事なのは、「絶対にこれが正しい」と決めつけないことです。特にITでは全ての分野に通じたスーパーマンはいないので、かかわるメンバーの叡智を集めることに徹するべきです。自分達の得意な分野で、みんながやりたいと考える方向に動くことができる状況を素早く作ること。「スピード」も重要です。信頼できる人と、働きやすい、働きたい、働いて楽しいと感じる環境を作ることが、私自身に求められる役割だと考えています。
――ガートナーでは「コーポレートオブジェクティブ(*1)」と呼んでいますが、会社が何を目指すべきかをすごく理解されているように思います。
(*1)『The Corporate Objective(Corporations, Globalisation and the Law)/アンドリュー・キー著』
あとCIOとしては、単に叡智を寄せ集めるだけでなく、会社のビジネスがどういう方向に行くか、そこでITはどういう付加価値を出していけるかという観点で判断しなくてはいけません。
幸い、私はこの会社の37年のキャリアの中で中盤以降、株式上場や中期経営計画の策定に携わり常にこの会社をどうすべきかを考える立場にいたので、ビジネスをどのように推進すればよいか、そのために必要な武器や方法は何か、常日頃から悩んでいました。会社はこう進むから、システムはこうあるべきで、そのためにはビジネスとシステムの間をいかにつなぐかといった今の立場としての判断に繋がっています。
――大高さんの37年間は、今のためにあるのかもしれませんね。どんな人に出会っても、その人の知恵を生かすことができる。ある種のダイバーシティともいえますね。現在のビジネス上の課題は何でしょう。
現在、大規模プロジェクトを抱えていますので、まずはこれらのプロジェクトを成功させることです。新たにクラウド環境をはじめ、ZTAといったセキュリティなど、ようやく最新鋭のインフラを導入できたので、これを武器にして基幹システムを稼働させ会社をよりサステナブルにしていきます。「中期経営計画2025」に「ビジネス実装に向け、デジタル技術を活用」という言葉が登場しますが、ビジネスにおいてデジタルをいかに生かすかが重要になります。
例えば生成AIについては、ビジネスに積極的に活用しています。これに関しては、2023年にデジタル推進部を立ち上げ、社内のセキュアな環境で「GPT-4」レベルのモデルが使える基盤を整備して、実証実験を行っています。具体的な取り組みとして、社内の業務マニュアルや規定類などをデータ化して生成AIに読み込ませることで、現場の生産性向上につなげることを考えています。
しかし社内の業務マニュアルや規定などを、そのまま生成AIに読ませても、表が読み込めないとか、社内用語が多いなどの理由で、正しい回答が返ってこないことが課題でした。幾つかのITパートナーと共同研究を進める中、RAGに投入する業務マニュアルを質問と回答の組み合わせにしていくことで高い精度で得ることができ、ほぼ実用段階に達しています。
また私は事務部門も管掌しています。ローコード/ノーコードツールを活用することで、かなりの業務改善が可能なことが分かったので、事務部門のメンバー自らがローコード/ノーコードツールによる市民開発を進めることで、抜本的な生産性向上に繋げようとしています。さらにビジネス側のDXも進めています。リース事業はモノと金融の組み合わせですが、モノの部分にはDXを強力に進める素地があります。
例えば当社自身でも太陽光発電事業を進めており、実際に発電設備を保有、維持管理しています。ここには発電状況や設備状態をリアルタイムで把握していくニーズがあり、事業を進める環境エネルギー営業部とデジタル推進部が共同体制を組み、さまざまなパートナー企業の知見を組み入れてデータを一括管理していく実証実験にも着手しています。
会社が大きく変化している今、こういったトライアンドエラーを積み重ね、なるべく多くの成功体験を皆で得て、なるべく早く次の世代に継承することも重要な取り組みの1つだと思っています。
――何事においても前向きで、何があってもへこたれない性格はいつ育まれたものなのでしょうか。
生来の性格ではないでしょうか。子供のころからポジティブシンキングです。今はそれなりに修羅場を潜り抜けてきたので、何があってもなんとかなると考えるようになりました。例えば、相手が何を考えているか分からないときには、けんかをすることも必要です。お互いが真剣に考えているのであれば、けんかしても最後は必ず分かり合うことができます。
――今後のCIOやITリーダーはどうあるべきでしょうか。
以前はITとビジネスが切り離されていましたが、現在はビジネスとIT&デジタルは1つでなければなりません。そこでこれからのCIOは、ITの方向性だけでなく、ビジネスといかに融合するか、デジタルをビジネスでどう生かすかを考えることが必要です。ITの専門家になるのではなく、現場とIT部門の「橋渡し役」になることが重要です。これは永遠の課題でもあります。
――最後にこれからのIT人材にメッセージをお願いします。
次の世代のIT人材に期待するのは、もっと好き勝手にやってほしいということです。社内で「デジタルによりこんなツールを作りました」という内容の発表会を実施したのですが、非IT部門のメンバーによって、想像していたのとは違う方向に進んでくれていて驚かされました。今の若い世代は、われわれの世代が思う以上にいろいろなものに興味を持っているし、どん欲だし、日本の将来を考えています。
かつてわれわれの世代は、成功のセオリーがあり、これが当たり前だという考え方がありました。今は答えがないことが前提なので、自分たちが勉強して武器を持ち、さまざまなトライを重ねていかないと変化の激しいビジネス環境で生き残ることができません。私と共に仕事をする皆さんには、そのために必要なサポートは提供するし、失敗しても責任はとるので、どんどん新しいことにチャレンジしていただきたいと思います。
対談をしている間、大高さんは何度も「ありがたいことに」という言葉をおっしゃいました。一緒に働く人々への感謝の気持ちを常に持ち続けておられます。感謝の気持ちを持つことで、共感力が養われ、自信が生み出され、楽観的で粘り強くなり、安心感をもたらすといわれます。大高さんは、まさにそれを体現しておられ、そういう大高さんだからこそ、多くの人が集い、大きな成果につながっているのだと思いました。大高さん、素晴らしい話をありがとうございました。
浅田徹(Toru Asada)
ガートナージャパン エグゼクティブ プログラムリージョナルバイスプレジデント
2016年7月ガートナージャパン入社。エグゼクティブ プログラム エグゼクティブパートナーに就任。ガートナージャパン入社以前は、1987年日本銀行に入行し、同行にて、システム情報局、信用機構室、人事局等で勤務。システム情報局では、のべ約23年間、業務アプリケーション、システムインフラ、情報セキュリティなど、日銀のIT全般にわたり、企画・構築・運用に従事。とくに、日本経済の基幹決済システムを刷新した新日銀ネット構築プロジェクト(2010年〜2015年)では、チーフアーキテクトおよび開発課長として実開発作業を統括。2013年、日銀初のシステム技術担当参事役(CTO:Chief Technology Officer)に就任。日銀ITの中長期計画の策定にあたる。
2018年8月、エグゼクティブ プログラムの日本統括責任者に就任。
京都大学大学院(情報工学修士)および、カーネギーメロン大学大学院(ソフトウェア工学修士)を修了。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授