ニッポンの電子化は無駄ばかり、真の「IT化」を――イーコーポレーションドットジェーピー廉社長(3/3 ページ)

» 2012年08月22日 08時00分 公開
[聞き手:浅井英二、文:山田久美,ITmedia]
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従来の黒板と機能が同じならば電子黒板を導入する必要はない

 「教育分野のIT化に関しても、韓国は大いに参考になる」と廉氏は語る。

 韓国では、教育分野のおけるIT化の推進に当たり、まずは、小学校から高校までの教師のITリテラシーの向上に着手した。現在、すべての教師は3年に1度、必ず1カ月以上のIT教育を受けることが義務付けられている。その際、オフィススイートの使い方からデジタル教材の作り方、インターネットの使いこなし方まで必要なノウハウを学ぶ。

 しかし、日本の教師の場合、授業以外の業務が多く、IT教育に手が回らない。それゆえ、電子黒板を導入しても電子黒板ならではの特徴を生かした、これまでにない授業を行うといった発想にならないようだ。

 韓国では、小中学校の教科書はすべて国定で、著作権フリーのため自由にデジタル教材を作り、電子黒板を使って授業を進めることができるが、日本では紙の教科書をスキャンしてデジタル化すると著作権侵害になるため、電子黒板用のコンテントを用意することすら容易でないという。

 「例えば、日本の電子黒板のメーカーは、“従来の黒板に負けない書き心地”をセールスポインにするが、従来の黒板に負けないというのであれば、何も高いお金を支払って電子黒板を導入する意味はない。そういった電子化と情報化の違いに気付いていない人が多い」(廉氏)

 また、韓国では、日本の文部科学省に当たる省庁が学務情報システムを作り、小学校から高校まですべての学校に、クラウドで無償提供している。生徒の名簿や成績はすべてデジタルデータとしてネットワーク上で管理されるため、進学や転校による名簿や成績のデータ移行が発生しても、ネットワークを介して簡単に行うことができる。その結果、教師は事務作業の大幅な軽減が図れ、その分の時間を授業の準備や教材作りにあてることができるというのだ。

 「日本には、約3万6000校の公立学校があるが、学務情報システムはそれぞれの地方自治体で用意しなければならない。このシステム導入コストはどんぶり勘定で計算しても1校あたり年間100万円は下らないとして計算すると年間360億円の費用が必要となる。これらの莫大な重複投資は非常に無駄な上、それぞれスペックがバラバラなため、データ連携を図ることができない。その結果、データの移行にさらに莫大な税金が投入されるという、負のスパイラルに陥っている。電子カルテと同じ構図だ。わたしは皆さんに、韓国の状況をみてもらい、真のIT化を図ってほしいのだ」(廉氏)

 このような、医療分野や教育分野で行われている重複投資を防ぐためには、国が先頭に立って、正しい方向に導いていかなければならない。しかしながら、現在のところ、国にも地方自治体にもITに精通した先導者がいないため、このような税金の無駄使いが行われているのだと廉氏は主張する。

 「日本には、韓国と違ってIT社会のコントロールタワーがありません。公務員の論理、政治家の論理、ITベンダーの論理で動いていて、本来、つながるべきネットワークが寸断されている。しかも、国民は無知・無関心を装い、そのツケを払わされている。コロンブスの卵とは知っての通り、誰もゆで卵を立たせることができない中、コロンブスがその尻をつぶして立たせたという逸話だ。このように、一見簡単そうだが初めて行うのは難しいものだ。わたしがインターネット・コロンブスツアーを行っているのは、日本の皆さんに、電子化と情報化の違いを分かってもらい、公共サービスにおける正しいIT化を推進してほしいから」と廉氏は話す。

 現在、廉氏は、同氏の考えに賛同する地方自治体の要請の下、佐賀県、沖縄県浦添市、青森県で公共サービスのIT化にまい進しているところだ。

 「多くの障壁があり、困難な道ではあるが、理想の公共サービスのIT化に向け、今後も諦めることなく地道に啓蒙活動を行っていく」(廉氏)

プロフィール:イーコーポレーションドットジェーピー代表取締役社長 廉宗淳(ヨム・ジョンスン)氏

青森市 情報政策調整監(CIO補佐官)、佐賀県 統括本部 情報課 情報企画監。

1962年ソウル市生まれ。1985年ソウル市公務員として3年間勤務。1989年に来日し、3年間、日本の企業でプログラマーとして勤務。1993年韓国に帰国し、ITベンチャーを設立。1997年に再び来日し、ITコンサルティング会社、イーコーポレーションドットジェーピー(株)を設立、代表取締役に就任。2006年青森市情報政策調整監に就任。2007年早稲田大学大学院修了。2007年佐賀県情報企画監に就任。2009年総務省電子政府推進員に就任。主な著書に「電子政府のシナリオ」(時事通信社、2003年)、「行政改革に導く、電子政府・電子自治体への戦略」(時事通信社、2009年)など。


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