京都花街お茶屋に学ぶ「切り捨て」の決断ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2017年06月08日 07時08分 公開
[高橋秀彰ITmedia]
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 この突き詰め方の徹底度合いはすさまじく、宴会の夜は一切顧客に財布を出させる場面はありませんし、料金表もオーダーシートもメニューリストもどこにもありません。芸舞妓のお花代(料金)や、お座敷に取り寄せた仕出し料理、外での食事、帰りの各顧客のタクシー代、観劇の代金まで全ていったんお茶屋が立て替え、後日顧客に請求します。お茶屋の外での食事や観劇などの予約もお茶屋が手配します。予約困難な料亭や観劇も、なぜかお茶屋経由だと予約できてしまいます。

 一般企業でも、もう一度、自社が提供しているモノに関して徹底的に突き詰めて磨き抜いているかどうかを見直してみてはいかがでしょうか。

何を諦めて切り捨てるか

 何事も特化して突き詰めると、それに伴って諦め、切り捨てるものが生じます。

 お茶屋の場合は、規模の拡大を切り捨てています。

 宴会ごとの単品生産でのきめ細かい顧客満足を追求するのですから、量産によるスケールメリットを追求することはできません。

 前項では宴会のプロデュースに関してのみ述べましたが、他にも、芸舞妓さんたちは原則として中学校卒業後から一定の「仕込み期間」を経て、日本舞踊の試験に合格して初めて舞妓としてデビューします。それまでに半分以上が脱落して実家に帰るという厳しい世界です。

 仕出し料理も、焼き物やわん物は熱い状態で、天ぷらはカラッとした状態で、一品ずつ料理屋からお茶屋の座敷に運ばれます。

 これでは規模の追求ができるはずありません。

 ここで言いたいことは、単品生産が良いということではなく、量産でも単品生産でも何か方針を決め、それに沿って徹底的に突き詰めた場合、別の何かを潔くバッサリと諦める必要があるということです。

 大事なのは、本業と方向性を決めたら、徹底的に突き詰め、提供するというスタンスです。一見さんお断りや単品生産を礼賛しているわけではありません。

「やらないこと」を決める

 さて仮に、ある方向性によって顧客満足を提供すると決めた場合、お茶屋に限らず、「やらないこと」を決めるのは重要です。お茶屋の場合、宴会の成功のためには、いかに手間暇がかかろうとも合理化をしません。

 例えば、舞妓さんのトレードマークともいえるあの手間のかかる白粉(おしろい)に10キログラム以上もある裾引きという盛装。特に指定がない限り、舞妓さんは毎晩あの衣装です。自分1人で着ることはできず、男衆(おとこし)と呼ばれる男性によって着付けがなされます。男性の力でないとキッチリと手早く着付けることが困難なのです。白粉の化粧も男衆の手配も宴会に間に合うように逆算して毎日準備し、宴会後、深夜に着物を脱いで畳むとともに化粧を落とすということを毎晩繰り返しています。

 他にももろもろ非合理な部分がありますが「おもてなしによる宴会の成功」という観点に照らして合理化しない部分は守ります。

 掛け払いの清算方式が銀行振り込みになったり、お茶屋と顧客の連絡は電話がメインであったり、エアコンや水洗トイレの完備など、合理化すべき部分は合理化され変化しています。

 つまり、漫然と合理的なモノを導入しているのではなく、自社の方針と合っているのかどうか、細部まで一つ一つ検討しながら企業活動をしています。

 言い方を変えると、考え方や方針、方向性が、コストや利益や売上よりも優先しており、逆説的ですが、それが350年間もの維持存続の要因となっているのです。

 最後に、この記事では字数の関係で花街文化の細かな例外にまで言及していないことをお断りしておきます。

著者プロフィール:高橋秀彰

高橋秀彰綜合会計士事務所 代表。公認会計士・税理士・宅地建物取引士。

昭和40年生まれ、愛知県出身。立命館大学理工学部卒。

創業当初の資金状況の苦しい中でも「一見さんお断り経営」を貫き、公認会計士であるにもかかわらず経済合理性に反するリスクを背負った経営判断を行ったことから一目置かれる信用と実績を築く。特に他の会計事務所では手に負えない高度な案件などを得意としており、数多くの相続対策や非上場企業の株主構成の再構築、資金繰り改善の実績を持つ。また、京都花街のお茶屋ではまれな顧客として知られ、京都花街の不文律や裏事情にまで精通している。


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