シンプルにロジカルに、ストーリーを語るグローバル時代のスマートリーダー術――100人の経営層から(2/2 ページ)

» 2012年05月30日 12時00分 公開
[林正愛(アマプロ),ITmedia]
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リーダーに求められるのは明確であること

 シンプル、ロジカルであるとともに、明確に伝えることも求められています。ある経営層の人が言っていました。

「有能なリーダーは情熱的である必要はない。魅力的である必要もない。才気あふれる人物、親しみのある人物でなくてもいい。弁舌に長けていなくてもいい。ただ明確であればいいだけだ」といっているのを以前読んだことがあります。これがとても大事だと思っています。

上司が何を考えているのか、何を期待しているのか、どういう判断軸を持っているのか、目指すべきゴールはどこか――これらを、常にクリアに、明確に示せることが、上に立つ者としての必須要件だと思います。

上の者が自ら率先して、下の者に対して目標や自分の考えを示すべきであるということを、20年ぐらい前に自分が管理職になった頃から、常に心がけてきましたし、管理職への研修などでも、このことを強調してきました。


 リーダーは組織の方向性を明確に示さなければ、誰もついてきてくれません。それが明確でないと、どこに向いて、どう行動したらいいのか分かりません。

 「○○を目指して○○をやっていく」

 「○○という目標があるから、今○○をしている」

 常に明確に示すことが欠かせません。

ストーリーを語る

 ストーリーテリング(Storytelling)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。文字通り、物語や話を語って聞かせるということですが、ビジネスの現場でも、この言葉がよく使われるようになってきました。コンセプトや思いを、それらを想起させる物語を通して伝えていくのです。

 「○○が開発されることで、○○が実現でき、○○のようなことが可能になる」

 会社で共有している事例などもストーリーにして伝えることがお勧めです。数字や語り手の体験や身近な出来事をベースに物語を作ると、より効果的に聞き手の心に響くのです。

 「話を聞いたほうがよく分かります。原理原則などの堅いことは頭に残りませんが、実際のケースを事例として挙げると、記憶によく残ります。いろいろな組織で仕事をしてきましたが、例えばこの年度の売上はどれくらいだったかなんて覚えていません。その時にどんなチームで仕事をしていて、どんな辛さや楽しさを共有したか、どんなストーリーがあったかは鮮明に覚えています。そちらのほうがはるかに大事です」とあるグローバル企業の幹部が言っていました。

 その会社にはクレドがあるのですが「クレド自体は、特別なことは書いていない。これを風化させないことのほうがむしろ大切」という考えのもと、いろいろなストーリーを共有し、それを浸透させるための試みが数多く行われています。お客様に対して○○な提案をしたことでとても喜ばれた、○○なことでお客さまが不安に感じたなど、ストーリーにして定期的に共有し合うとともに、クレドをしっかり実践できた人をクレドリーダーとして評価しています。

 いろいろな企業が経営理念やフィロソフィーを掲げていますが、掲げているだけでは意味がありません。それを浸透させるために、多くのストーリーを語り、共有していくことが欠かせないのです。

 ストーリーが面白いと人は興味を持ち、誰かに話したくなる。そして実行したいと思います。「戦略とは静止画ではなく、動画でつながっていくものでなければいけない。ストーリーを描けることが大切になる」と一橋大学の楠木建教授は言っています。

 シンプルにロジカルに、そしてストーリーを語る――グローバル時代だからこそ求められているのです。

著者プロフィール

林正愛(りんじょんえ)

BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ、ファイナンシャルプランナー、英検1級、TOEIC955点。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。British Airwaysに入社し、客室乗務員として成田―ロンドン間を乗務。その後中央経済社にて経営、会計関連の書籍の編集に携わった後、日本経済新聞社に入社し、経営、経済関連の書籍の企画および編集を行う。2006年4月に退職し、「眠っている才能を呼び覚ませ」というミッションのもと、優秀な人たちが活躍する場を提供したいという思いから、同年10月にアマプロ株式会社を設立。仕事を通じて培ってきたコミュニケーション力や編集力を活かして、企業の情報発信をサポートするために奔走している。

企業の経営層とのインタビューを数多くこなし、その数は100名以上に達する。その中からリーダーの行動変革に興味を持ち、アメリカでエグセクティブコーチングの第一人者で、GEやフォードなどの社長のコーチングを行ったマーシャル・ゴールドスミス氏にコーチングを学ぶ。現在は経営層のコーチングも行う。コミュニケーションのプロフェッショナルが集まった国際団体、IABC(International Association of Business Communicators) のジャパンチャプターの理事も務める。2012年4月から慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科で学んでいる。著書『紅茶にあう美味しいイギリスのお菓子』(2000年、アスペクト)。2児の母。


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