日本発のグローバルブランドを増やそう視点(3/3 ページ)

» 2015年01月19日 08時00分 公開
[福田 稔(ローランド・ベルガー),ITmedia]
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3.ブランドを軸とした組織を作る

 最後に、グローバルブランドを作る上で重要となるテーマとして、組織の重要性を取り上げたい。強いブランドを作るためには、地域軸や機能軸に優先して、組織全体がブランドの維持・成長に向くようなブランド軸の組織構造を作らなければならない。しかしながら、日本の化粧品、ヘルスケア、アパレル、食品・飲料業界等の企業はこれを苦手としている会社が多い。市場が右肩上がりの頃は、ブランドマネジメントに注意を払わなくても営業・チャネルや広告宣伝に頼った売り方で成長できたため、未だに機能軸が強く組織全体がブランドに向いていないケースが多く見られる。また、一見ブランド軸で組織が分かれていも、経営インフラが整っておらずブランドの収益性が見えない、またはタイムリーに管理されていないケースや、海外は地域別で独立性が強くブランド軸のコントロールが効かないなど、経営インフラやマトリクス組織の作り方に問題があるためブランド軸でのガバナンスが弱いケースも多々ある。

 ガラパゴス気味の国内市場においては、このような組織でも未だに何とかなってしまうこともあるが、グローバルでは通用しない。ブランド軸の組織を持ち、日々ブランド力の維持・成長に切磋琢磨している強力なグローバルブランドが競争相手となるからだ。ユニクロや無印良品などグローバルで成長しているブランドも出てきてはいるものの、残念ながらアパレル、化粧品、食品・飲料業界の殆どの日系企業はグローバル化に苦戦しているのが現状だ。これらの業界の日系企業が国内で成功したブランドを海外に持っていこうとすると、大抵苦労する。グローバル標準のブランド作りではなく、宣伝部と広告代理店による日本的クリエイティブな広告・マーケティングや、強力な営業網や卸・百貨店とのお付き合いをはじめとする日本固有のチャネル構造に頼って成功してきた国内での勝ちパターンが通用しないからだ。

 一方で、オーガニックでのグローバル化の難しさを理解しているが故に、既にブランド力を確立した海外ブランドを買収することで、グローバル化の足掛かりを得ようとする日本企業も昨今増えてきている。これは一見合理的なやり方だが、大抵の場合買収後のPMIで苦労する。国内がそもそもブランドを軸とした組織体制になっていないので、図Dに示すようなブランドビジネスを加速化させるための本社機能が弱く、買収先をうまく活用・統合できないからだ。また、組織・機能面で統合をせず緩やかな統治を志向する場合でも、ブランド軸の経営に不慣れなため結局買収先をハンドリングできずシナジー創出に至らない場合が多い。経営上ブランド戦略を重視している日本企業の多くが、組織、オペレーション、経営インフラ等の面でそれを体現するシステムになっていないのである。

図D

ブランドとは、コンセプトや戦略だけで創出できるものではない。ブランドを育成・維持するための仕組み、組織を整えた上で、組織全体がブランドの成功を夢見て挑戦し続けて初めて、強いブランドを創造できるのである。小さい組織であっても大きい組織であっても、皆がブランド作りに邁進できる環境を作り出すことが、ブランドマネジメントを担う経営者には求められる。

 マーケティングの大家フィリップ・コトラーは、次のように述べている。「マーケティングは時代とともに進化を続けている。特に、マーケティングの中における『ブランド』の位置づけは激変したと言ってよい。私がマーケティング・マネジメントの第一版を書いたのは1967年だが、そのときにブランド論に割いたのはたったの2 ページだった。ブランドとは何かについて定義しただけである。正直なところ、ブランドが今日のように重要な要素になるとは想像すらしていなかった。」

 今日、言うまでも無くブランドは商品・サービスの付加価値の源泉として大変重要である。90年代、品質で日本に劣り、コストで中国に劣り八方塞だったサムソンは、悩みに抜いた結果デザインをコアにコーポレイトブランドを再構築することで付加価値の創造を試みた。現在では、その試みは功を奏し冒頭のグローバルブランドランキングでTOP10入りするまでのブランドに成長している。

 日本企業が本稿で取り上げた三つのポイントを抑え、他の先進国並みのブランド創出力を持てば、本来15 ブランドくらいはTOP100 にランクインさせることができるはずだ。現状はその半分であることを加味すれば、改善余地が大きいことは明確であろう。本レポートではスペースが限られるため事例や必要施策の詳細まではご説明できないが、本稿が必要施策の全体像を知る上で、グローバルブランドの育成に従事されている経営者やブランドマネージャーの方々への一助となれば本望である。

著者プロフィール

福田 稔(Minoru Fukuda)

ローランド・ベルガー シニア プロジェクトマネージャー

慶應義塾大学商学部卒、欧州IESE経営大学院経営学修士(MBA)、米国ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院International MBA Exchange Program修了。消費財、サービス、ラグジュアリーブランド、総合商社、自動車、製造業等を中心とした幅広い業界において、グローバル成長戦略、ブランド戦略、事業再生戦略の立案・実行を数多く支援、多くの成功実績を持つ。また、上記の業界において、プライベートエクイティに対するデューデリジェンス支援、投資後の企業再生支援の経験も豊富。経済産業省主導のクールジャパン政策への支援も行っている。


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