出版不況の中でヒットを連発――秘密は「編集思考」による新たな価値の創出ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

» 2019年08月14日 07時06分 公開
[山下竜大ITmedia]
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「かけ合わせ」でオンリーワンの価値を生み出す

 「かけ合わせ」の分かりやすい事例として、「乳酸菌ショコラ」「うんこ漢字ドリル」「ロボット掃除機 ルンバ」「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」などのヒット商品がある。乳酸菌ショコラは、乳酸菌とチョコレートという、これまでに出会ったことのなかった価値をかけ合わせたことで大ヒットした。

 うんこ漢字ドリルは、すでにある漢字ドリルに、「うんこ」というインパクトの大きいキャラクターをかけ合わせることで大ヒットした。ルンバは、時短と家電を組み合わせて、ガリガリ君リッチ コーンポタージュは、アイスクリームとコーンポタージュという意外性のかけ合わせにより大人気につながった。

 この考え方は、商品やサービスの開発においても活用でき、アスコムの『医者が考案した「長生きみそ汁」』も同じ発想で出版された本の1冊である。「医者×長生き×みそ汁」という、これまでに出会ったことのない価値をかけ合わせることでヒットにつながった。発刊当初、みそとリンゴ酢がスーパーの売り場から消えるくらい、この本は大ヒットした。

商品、サービスの「優れているところ」を「全方位」で考えつくす。弱点も魅力に変える

 現在、出版不況といわれているが、本の「優れているところ」はどこかを考えてみる。「健康長寿の人に読書の習慣がある人が多い」「読書と健康長寿の相関関係は、運動と健康長寿の相関関係よりも高い」「健康長寿上位の山梨県は、日本で最も図書館が多い」「読書は脳を若返らせる」などのエビデンスがあるという。

 柿内氏は、「本を読んでいるときの、空気、香り、連想で脳は若返ることがあるそう。また、6分の読書で、68%のストレスが減るというエビデンスもあるそうだ。ちなみに、散歩では42%、ゲームで21%だそう。このように、読書のメリットはたくさんあるのだが、まだまだ認知されていないことも多く、さまざまな角度から魅力を抽出し、新しい価値を構築することも、編集思考のやり方の一つである。

「自分ゴト、あなたゴト、社会ゴト」を考える

『1日1分見るだけで目がよくなる28のすごい写真』

 新しい商品やサービスなどの価値を生み出すときに、まず(1)自分にとって価値があることが重要になる。また自分だけでなく、(2)あなたにとって価値があること、(3)社会にとって意味があることも重要。この3つの要素が重なると、消費者はその商品やサービスを購入したくなる。

 現在、50万部以上が売れている『1日1分見るだけで目がよくなる28のすごい写真』は、「老眼や近視が気になる。目が疲れる」といった自分ゴト、「子どもや孫がスマートフォンやゲームの使い過ぎで目が気になる。高齢者の運転が気になる」というあなたゴト、「日本人の視力低下が著しい。目に関する商品が話題」など社会ゴトの3つの要素を入れたことでヒットした。

たくさんの人の中にある無意識を見つける

 ヒット企画は、「無意識×人数」から生まれる。『3000円投資生活』では、「世代を越えて、将来に対するお金の不安が大きい」「投資には興味があるが怖い」「投資は難しそうでハードルが高い」「お金は好きだが、お金のことを考えるのは嫌い」「一獲千金を狙いたい」などの無意識から考えられた企画である。この多くの人が持っている無意識と3000円という手軽な金額が世代を越えて注目され、60万部のベストセラーになっている。

「逆算」で考える

 プロジェクトは、ゴールを設定し、ゴールから逆算して戦略を考えることが必要。当たり前のように感じるが、意外にできていないケースが多い。例えば、100万部の本を企画したいと思ったとき、100万部から逆算して企画しなければ実現できない。「100万部になるために必要なことは何か」からの発想が必要になる。

 100万部になる条件は、人気のテレビ番組で大きく取り上げられる、広告で実売がとれる、書店に価値が伝わりやすい、潜在顧客が3000万人以上いる、本である必要があるなどが考えられる。ちなみに、100万部になるジャンルはほぼ決まっていて、文藝やマンガを除く実用書では、健康、ダイエット、日本語、英語、コミュニケーションなどなど、特定のジャンルに限られている。

 逆算を徹底することでヒットの可能性を高めることができる。アスコムでは、逆算から考えた企画により、スーパーから、みそ、もち麦、おから、さば缶などが消えるブームを創り出したり、ふくらはぎブーム、自律神経ブーム、少額投資ブームなどを生み出したりという実績がある。

「認知→興味→信用」の流れを作る

 商品を購入してもらう、サービスを利用してもらう場合、認知され、興味を持ってもらうことが必要だが、それ以上に「信用」の有無が購買の差につながる。認知が増えるだけでは、商品やサービスは売れない。「認知→興味→信用」の流れを作ることが必要である。特に「信用」は、いまの時代ますます重要になっている。

 柿内氏は、「今後も多くの人に喜んでもらえる本の出版はもちろん、多くの企業の課題解決の手伝いも編集思考を活用してやっていきたいと考えている。いい商品やサービスがあるのに認知がすすまないとか、新規事業がなかなか生まれてこないとか、編集思考を活用すると解決できることはいろいろある。編集思考をもっともっと広く伝えていきたい」と締めくくった。

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