要するに、この法改正は、国がシニア社員に向けて「辞めて独立することも視野に入れなさい」という意思表示をしたと捉えることができるのです。この法律は、令和3年4月1日に施行される決定事項です。
長年、終身雇用・年功序列というルールの中で生きてきて、まだその意識から抜け出せていないミドルの中には、「自分たちを切り捨てるのか」「なんてひどい話だ」と憤る人もいるかもしれません。しかし、時代の変化に伴ってルールが変わることは致し方ないことです。昭和、平成のルールのままでは企業が生き残っていけないことも事実。であれば、ルールが変わったことをただ嘆いているより、新しいルールの下でどう生きるかを考えるほうが、はるかに生産的です。
そして、そのように前向きに考えたとき、特に大企業ミドルの新しい選択肢として浮上してくるのが「独立」なのです。しかし、それは人生を懸けた無謀な冒険ではなく、仮に失敗しそうでもダメージを最小限に抑え、再度やり直すこともできる「ローリスク独立」です。それは、ずばり「ひとり会社」の設立です。ひとり会社とはいえ、社長になることをあなたに提案します。
そもそも独立自体が、大企業ミドルにとってはリスクを低減するための有力な方法です。前述のように、日本型雇用のルールが崩壊した今、1社に依存してキャリアを考えることそのものが大きなリスクです。株式投資の世界で、1社に全財産を投資することが危険なのと同じです。
それなら分散投資をすればいい。そもそもこの不安定な時代に、相応のキャリアを積み上げてきた自分の生殺与奪の権限を1社だけに渡しておくことは、あなた自身のためになりません。「鬼滅の刃」で富岡義勇が竈門炭治郎に放った名言「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」ということです。
とはいえ、「自分には独立して通用するほどの実績もスキルもない……」と尻込みする人もいるでしょう。今まで大きな組織に守られて生きてきたこと、そして、ここ最近は特に、ミドル会社員が「ITに弱い」「仕事をしない」といったネガティブな評価をされがちと考えれば、自信が持てず、消極的になるのも無理のない話です。
しかし、企業で20年、30年とキャリアを重ねてきたミドルに「何もない」ということはあり得ません。蓄えられた知恵、磨かれてきたスキルが何かしら必ずあるはずです。要は、その知恵やスキルが市場のニーズに対応するかたちで顕在化されておらず、時代に合わせたブラッシュアップがされていないのです。
であれば、皆さんがすでに持っている価値を浮き彫りにするための努力をすればいい。私が推奨する「独立論」は、今後の20年、30年という長いスパンを見据えた提言であり、今すぐの拙速な独立を勧めるものではありません。今50歳前後のミドルが定年する60〜65歳になる際に、自信をもって独立できる「5年〜10年計画でのキャリア戦略」なのです。
それでは、どのようにして独立をめざしていくか。詳しくは拙著『50歳からの幸せな独立戦略〜会社で30年培った経験値を「働きがい」と「稼ぎ」に変える!』(2020年11月発行、PHP研究所)をご参照ください。
人材育成の専門家集団FeelWorksグループ創業者であり、人を育て生かす「上司力」提唱の第一人者。兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て2008年に「人を大切に育て生かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、400社以上を支援している。独自開発した「上司力研修」「50代からの働き方研修」、eラーニング「新入社員のはたらく心得」「パワハラ予防講座」(2021年リリース予定)などを提供。多様な働く人たちの本音に通じ、四半世紀にわたる企業研究に基づいた研修プログラムで、現場を預かるリーダー達から圧倒的支持を集めている。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。一般社団法人企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員なども兼職。連載やコメンテーター、講演活動も多数。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『上司の9割は部下の成長に無関心』(PHP研究所)、『年上の部下とうまくつきあう9つのルール』(ダイヤモンド社)、『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)など多数。近刊は『コロナ氷河期 終わりなき凍りついた世界を生き抜くために』(扶桑社)、『本物の「上司力」』(大和出版)。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略 会社で30年培った経験値を「働きがい」と「稼ぎ」に変える!』(PHP研究所)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授