宮端さんは最近社長になったばかり。4年も赤字を放っておいたのは、前任の社長であって宮端さんではない。しかし、宮端さんは、椅子から立ち上がり、こう言って頭を下げた。「申し訳ない。心からおわびをする。皆さんをもう二度とこんなに辛く、悲しい気持ちにさせないと約束する。だから、今回は、はとバスのために一緒に頑張ってくれないか」
宮端さんにしてみれば、「赤字をつくったのは私じゃないよ。前任の社長だよ」という思いがあったかもしれない。しかし、そんな言い訳を一切口にすることなく、ただただ従業員に頭を下げた。言い訳をしない─。これが、リーダーに求められる能力だ。
第四が、仕事の重要性に比べて、
自分などとるに足りないことを認識することである。
リーダーたる者は自らを仕事の下におかなければならない。
これまた当たり前のことである。
ピーター・ドラッカー
仕事の重要性に比べて、自分などとるに足りないことを認識するとは、お客さまのことだけを考えるということだ。病院に例えれば、患者さんにとって良いことだけを考えるということだ。ドラッカーはある病院で実際にあったことを次のように紹介している。
会議で十分に話し合った結果、あることが決まりそうになると、“それは患者さんにとって一番良いことか”と必ず聞く看護師さんがいた。その看護師さんが看護する病棟の患者さんの回復は早かった。その看護師さんが引退してもなお、「それは患者さんにとって一番良いことか」という基準で、物事を考えることが当たり前になっている。
会議で何かを決めるときに、“それはお客さまにとって一番良いことか”と必ず問う企業がどれだけあるだろうか。常に、自分たちの事情に引っ張られ、内側のもめ事に関心が向いていないだろうか。
「大津波警報が発令されました! 高台に避難してくださーい」
その日、何度も何度も、そう叫ぶ防災無線の叫び声が、大勢の命を救った。その声の主は、防災対策庁危機管理課の職員である遠藤未希さんだ。3月11日午後2時46分、宮城県南三陸町の防災対策庁の2階にある放送室に駆け込み、防災無線のマイクを握った。恐ろしい勢いで近づいてくる津波は、遠藤さんがいる庁舎にも、容赦なく迫ってきた。
大勢の人は、波の大きさと勢いを見て、震え上がった。しかし、遠藤さんは怯むことなく、「一人の犠牲者も出してなるものか」との強い使命感に立ち、最後の最後まで叫び続けた。「逃げてくださーい」「6メートルの津波が予想されます」「逃げてくださーい」「異常な潮の引き方です」「早く逃げてくださーい」
津波のあと、屋上で10人の生存者が発見された。しかし、そこに遠藤さんの姿はなかった。その地域には、約1万7700人の住民が住んでいた。その半数近くが遠藤さんのおかげで避難することができた。遠藤さんは、果たすべき職責を全うした。
遠藤さんに感謝し、遠藤さんの仕事に対する姿勢を学びつつ、自分自身も遠藤さんのように、「仕事の重要性に比べて、自分などとるに足りないことを認識し、自らを仕事の下におくことのできる人間でありたい」と思う。遠藤さんのご冥福を祈りつつ。合掌
起業する人が圧倒的に増えたとはいえ、いまだビジネスパーソンの大多数が企業の1人として仕事をしている。企業とは評価の世界である。評価の世界の中にあって人は、保身に走る。誰もが生活がかかっている。保身になって当然だ。
しかし、自分を仕事の下におき、仕事の重要性に比べて自分などとるに足りないことを認識し、使命感と信念をもって仕事にあたる私たちであり続けたい。
ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント
東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。
著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授