第8回:リーダーシップスタイルの変遷と、いま自社が取るべきリーダーシップスタイルを見極めるマネジメント力を科学する(2/2 ページ)

» 2022年11月22日 07時01分 公開
[井上和幸ITmedia]
前のページへ 1|2       

 小杉さんは言います。

 「リーダーシップというのは“The most studied, and the least understood area. ”と言われています。要は“研究されつくしているのによく分かっていない分野である”と。それでも、こういう整理の仕方をしておけば、“今、組織がどんな状況で、どんなリーダーシップが必要なのか”と考えるよりどころにできますし、どんなリーダーシップスタイルを取ればいいかという1つの指標になります。そこがいい点ですよね」

 ここで1つ、読者の皆さんに伝えたいことは、「リーダーシップ1.0」から「リーダーシップ3.0」「(リーダーシップ)4.0」への移行は発展・進化であると捉える人も多いと思いますが、例えば「1.xよりもやっぱり3.0がいいんだ」と捉えるのは誤解でもあります。

 企業のステージや局面によっては、「3.0」よりも「1.x」「2.0」が望ましいケースは、非常に多くあります。例えば、創業時の組織体制が未整備な状態であれば、まずは業務統制のために「1.x」スタイルで行く必要がありますし、大きな変革を必要とするフェーズではトップが「2.0」スタイルで全社をリードする必要があるでしょう。

リーダーシップ1.5と3.0、その違いは?

 トークライブでは参加者の皆さんに、自身の会社がどのスタイルかを聞いてみました。結果は、「1.0」はなしで、「1.1」が13パーセント、「1.5」が33パーセント、「2.0」が20パーセント、「3.0」が33パーセント、「4.0」がなし、となりました。

 「1.5」と「3.0」が3分の1ずつ。2割が「2.0」、1割が「1.1」。少し前までは圧倒的に「1.5」が多かったところから、令和前後あたりから「3.0」が増えてきた印象です。多くの経営者・幹部のみなさんがそれを目指していて、「完全ではないにしろ、ある程度やれている」という人が増えてきている感じです。

 一方で、メディア等に多く登場する経営者、特にオーナー経営者が多いですがビジョナリーかつトップダウンという方が「2.0」スタイルですね。

 先に紹介した通り、もともとの日本的経営のお家芸でもあった「1.5」と、近年のスタイル「3.0」。

 経営者からすると、全体を管理統制しつつも現場を生かす「1.5」は継続安定を志向するタイプの多い日本企業組織において、今後もそれで(それが)いいのではないかという意見も聞かれます。

 しかし「1.5」における負の側面が、社内が村社会化することから起こる象徴的な出来事にあるのです。会社への行き過ぎた忠義から無理をしてしまい、過労死などの労務問題。組織ぐるみでのデータ改ざんや品質偽装、粉飾決算。幹部が悪意なく「これは我が社のためなんだ」みたいな内向きの論理で動いてしまう。

 内部に自浄作用が働かず、“閉じた系”の中で完結していた時代はもはや終わったと思います。そもそもそれではやっていけないし、ネット社会で開かれた情報社会の中で、そうした内部のひずみは必ず外部に露出されてしまうでしょう。今となっては「1.5」はなかなか難しくなっていると言わざるを得ません。


 名経営者・名監督がやっていることは、組織の状況に応じてTPOに合わせたリーダーシップスタイルを選択することです。皆さんも、自社に最適なリーダーシップスタイルはどれか。その望ましいリーダーシップスタイルを取ることができているか、ぜひチェックいただければと思います。

著者プロフィール:井上和幸

株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに

早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。


関連キーワード

リーダーシップ | 経営 | 経営者 | キャリア


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆