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» 2023年06月21日 07時07分 公開

“世界のミフネにわらじを履かせてもらった男”寺田農が語る、市川雷蔵、勝新太郎、三船敏郎の思い出ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

[松弥々子ITmedia]
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ワイルドな男らしさと細やかな気遣いをあわせ持つ、きれい好きの掃除魔 三船敏郎

 三船さんも本当に面白い人でした。三船さんとは1969年の岡本喜八監督作『赤毛』で共演しました。この撮影の時、冬で風邪気味だったんだね、私はスリみたいな役で、さらしとショートパンツのような半股引にわらじという衣装で、裸足にわらじは痛いんですよ。寒いし、僕がわらじを履くのを嫌がってたら後ろから「はい、そんなこと言わないで、履いてみる」とわらじを履かせてくれる人がいました。なんとそれが三船さんだったんです。で、僕はそのまま三船さんにわらじを履かせてもらいました。あとでみんなから“世界のミフネにわらじを履かせてもらった男”として、大変怒られましたよ(笑)。そのあと、僕は三船プロダクションに所属することになり、三船社長には大変お世話になりました(笑)。

 三船プロダクションは、映画の制作もしていて、だんだんテレビが隆盛してきて、映画会社が映画を制作しなくなった時にね、大道具さんとか、そういう裏方スタッフが仕事にあぶれた受け皿としても機能する、撮影所も作ってね。大きな撮影所で、オープンセットもあり、当時は三船プロが東京の時代劇撮影の本拠地みたいになっていました。その頃、多くのスターが自分のプロダクションを作ったりもしましたが、撮影所を作ったのは三船さんだけでした。三船さんは外国映画なんかにも出演して、そこで稼いだ金を全部会社に注ぎ込んだんだろうね。

 三船さんは社長でありながら掃除が好きで、真っ赤なポロシャツに真っ黄色のズボンといういでたちで、朝6時くらいから自分で撮影所の掃除をしていました。セットも清潔で、いつまでも畳の匂いがするようにきれいさでしたよ。ある日、三船さんと勝さんと石原裕次郎さんが3人で飲んでたんですけど、トイレに行った三船さんがいっこうに帰ってこないそうなんですよ。それでやっと戻ってきたと思ったら「トイレが汚かったから掃除してたんだ」って(笑)。それくらい、神経が細やかで優しい人でした。

 三船さんは1920年に、中国青島で三船写真館の長男として生まれ、そこで戦争中は陸軍航空教育隊の写真部で写真の仕事をしていました。それで終戦後に、東宝の撮影部に入った写真部の先輩を訪ねたそうなんです。俳優なんてまったく考えていなくて、撮影の仕事をしたいと思っていたそうです。でもその頃は撮影部に空きがなく、募集していたのが俳優部のニューフェースだけだったということで、ニューフェースとして俳優デビューすることになります。本人はだいぶ怒ってたそうですよ。でも、1947年のデビュー作『銀嶺の果て』では鮮烈な印象を残しました。

 その後、1948年の『醉いどれ天使』から、黒澤明監督とコンビを組んで、15本の名作を作り上げるわけですよね。1965年の『赤ひげ』を最後に、2人の監督・主演作はなくなるんですけど、これ以降はお互いがあまりいい作品を残していないように思いますね。やっぱり、三船敏郎あっての黒澤明、黒澤明あっての三船敏郎なんじゃないでしょうか。

 今思えば、三船さんっていうのは、戦前に主流だった美貌の二枚目スターの時代から、ワイルドな男らしい俳優がスターになる時代の先駆者なんだよね。私みたいな人間が役者としてやっていられるのは、三船さんみたいな先達がいたからです。

 三船さんは1997年(平成9年)12月24日に77歳で亡くなって、1998年1月24日に青山葬儀場にて告別式が行われるんですけど、その時の参列者が1800人しかいでした。ちなみに、勝さんが亡くなった時には1万1000人、石原さんが亡くなった時には3万5000人が参列してるんですよ。三船さんの功績を考えると、1800人は少なすぎますよね。でも、日本での参列は少なかったけど、世界では、ニューヨークタイムズで特集記事が掲載されたり、フランスのシラク元大統領や、スティーブン・スピルバーグ、マーロン・ブランド、アラン・ドロン、チャールトン・ヘストンといったそうそうたるスターや名監督がメッセージをよせたりしていましたからね。この“世界のミフネ”の功績は、日本ではもっと見直さなければいけないと思います。

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