業務部門は常に時代の流れにさらされている。これに対応するためには、IT導入は欠かせないが、それを他人事(ヒトゴト)としか受け取らないケースが多い。
業務部門(ユーザー部門)は、IT導入にどう関わるべきか。このテーマも議論し尽くされたテーマのように思える。
しかし現場の実態はどうなっているのかと問うと、実態は必ずしも理屈どおりに実行されていないから、また手を変え品を変えて議論されることになる。ここではちょっと視点を変えて、実利・実害面から議論を試みたい。
ダメユーザー部門の例を挙げるには、事を欠かない。
「我々には関係ない」、しまいには「IT導入対象に選ばれた我々の部門は、運が悪いなあ」と嘆く例さえある。具体的に検討に入る段階から、他人事、ヒトゴト状態なのである。こういうユーザー部門は従来の仕事のやり方を良しとして、普段から業務改善の可能性を探る努力をしていないことが多い。一般論として「時代に流れに応じてビジネスは変わる」ということは理解していても、それが自分たちの仕事にも当てはまるという想像力がないのである。
大企業A社の機械事業部が、まさにそれだった。A社は、全社的にはITに対する意識の高い企業だが、機械事業部は全製品が多品種極少量の受注生産、顧客の仕様変更要求が頻発、しかも短納期、それに応えるために複雑な部分組み立て品の仕込み方式を採用し、長年、手作業の孤塁を守って来た。そのためITに対する拒絶反応があった。
しかし時代の流れに逆らえず、生産計画システムを構築することになった。生産計画の撹乱要因排除と納期短縮のために需要予測的考え方を取り入れて先発手配を可能にするシステムを導入しようとした。
プロジェクトチームに製造・資材部門などライン部門から優秀な人材を投入するべしという方針が出たが、ライン部門にそもそもITなど迷惑だという考えがある上に、日常業務が忙しくて人を抜けないという理由から、優秀な人材ではなく、余剰気味な人材や扱いに困っていた年配者が投入された。彼らは普段から現場の仕事に対して積極的に関与しようとする態度に欠けている人たちだった。
当然、プロジェクト運営に支障が出た。こういう状況下でシステムが構築されても、なかなか使えるシステムにはならない。このように、他人事のユーザー部門は決して少なくない。
A社機械事業部の他人事の姿勢は、結局天に向かって唾を吐いているようなものだ。
中堅企業B社は、CRM的考え方の営業支援システムを自社開発した。しかしシステム稼働後、いろいろな不具合が出てきた。致命的でない限り、多少の不具合は修正しながらシステムを使い込んでいかなければならないが、事あるごとに些細な不具合を取り上げて「このシステムは、使い物にならない」とシステム批判を繰り返す営業部長がいた。
これが、古参で社内に影響力のある部長だから始末が悪い。そういう負の影響を与え続ける者が、システムを軌道に乗せることに強いブレーキとなる。ユーザーがこのシステムは何が何でも使いこなすぞという意気込みを欠いたら、一体誰がシステムを使いこなすというのか。
一方で、数は多くないが、前向きに対応をするユーザー部門の例も筆者は経験している。
中堅企業C社で営業支援システムを導入することになった時、あらゆる機会にその効果についてチェックをかける設計課長がいた。例えば業績会議の席上でシステムのことが話題になると、彼は情報システム部門や営業部門に対して鋭い質問を繰り返した。
「システム導入の投資金額の詳細を示せ」、「導入効果を、金額で具体的に示せ」、「導入後に、間接費配賦はいくら下がるのか。製品原価を押し上げては意味がない」などなど、本人が納得するまであらゆる場面で確認作業を繰り返した。結局、間接費配賦が増えて原価が上がると聞いて、設計課長は導入に猛烈に反対し始める。この場合、数字に対する積極的な関心の持ち方はある意味で評価できる。
ただし製品原価のみに焦点を合わせて、定性効果や全社的効果を無視した議論には問題がある。自らの部署に起こりうる問題だけでなく、他の部署への影響も考え、全体でのメリットも確認しようという態度がほしい。
中堅企業D社でCAMを含む製造管理システムを構築したとき、勤労部門は効果として製造部の人員が何名減員するかを工程ごとにあらかじめ確認をし、それを長期にわたって継続的にフォローアップしていた。
システムを導入するとき、導入する部門だけでなく、そこに関連する部門がすべて関心を持って、コミットメントすることが必要であり、それが最大のシステム効果実現に寄与する。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授