「月と蟹」著者 道尾秀介さん話題の著者に聞いた“ベストセラーの原点”(3/3 ページ)

» 2011年12月02日 08時00分 公開
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“人間失格”をきっかけに作家の道へ

 ――道尾さんが作家になろうとしたきっかけを教えて頂けますでしょうか。

 道尾:「あちこちで同じことを喋っていますが、きっかけは太宰治の『人間失格』ですね。初めて読んだとき、文章でしか出来ないことがあるんだって、本当にびっくりしたんですよ。そのとき初めて、小説というものに興味を持ったんです」

 ――その前はバンドをされていたそうですけど、自分で創作するということが好きなのですか?

 道尾:「いくら大好きなミュージシャンでも、“もっとこうしたらいいのに”って思いますよね、曲を聞いてると。だから自分で、下手くそなりに弾いて、新しく作ってみたりする(笑)。小説も同じです」

 ――『人間失格』のほかに衝撃を受けた読書体験はありましたか?

 道尾:「次は都筑道夫さんの『怪奇小説という題名の怪奇小説』かな。わけの分からないストーリーなんだけど、小説としては完璧に成立しているというすごい作品です。作家になってからは、自分で書いたほうが楽しいから、あんまり人の作品は読まなくなりました」

 ――では、道尾さんが最近読んだ本で面白いと思った本がありますか?

 道尾:「子供の頃に絵本というものを読んだことがなくて、最近になって興味を持って読んでいるんですが、良かったのは『モチモチの木』ですね。何処の本屋行っても売っている有名な絵本ですけど、読んだことがなかったもので。絵本って余計なことが何も書いていないから、いいですね」

 ――道尾さんが「座右の銘」としている言葉を教えて頂けますか?

 道尾:「そうだな……“事実は小説より奇なり”ですね。現実ってやっぱり面白いんですよ。こういう風に人と話していても面白いし、色んなことが起きる。作家さんの中には“事実は小説より奇なり”は一番嫌いな言葉だという言う方もいらっしゃいます。でも、物語が現実を超えるときっていうのは、作家が現実の面白さをしっかりと認識したときだと思うんですね。現実に対して強烈な興味や欲求を持っていないと、書いた作品はどうしても薄っぺらくなってしまう。そういうのが好きな書き手も読み手もいますけど、僕はまったく興味を持てません」

 ――今後、道尾さんが挑戦したいことはありますか?

 道尾:「毎回、そのとき自分自身でこんな本があったらいいな、こんな小説があったら読みたいなと思うものを書いているんです。それだけ聞くと、なにやらじつに好き放題やっているように思えるかも知れませんけど、自分の読みたいものって、自分以外に判定する人がいない、つまり相手がいないから、実はとても誤魔化しがききやすいんですよ。“そうそう、こんなのが読みたかったんだよ!”と思うのはすごく簡単なんです。だから“本当はもっと高いものが読みたかったんじゃないのか?”と自分に問いかける作業が必ず必要になる。それは今後も忘れないでいきたいですね。挑戦っていうと、そのくらいかな」

 ――では、『月と蟹』の読者の皆さんにメッセージをお願い致します。

 道尾:「『月と蟹』は僕の出来ることを全て詰めた長編小説です。内容としては、いろいろな人に楽しんでもらえるのではないかと思っています。この作品に登場する人物は特殊な境遇の人々ではなく、誰にでも覚えのあるところで悩んで、葛藤して、泣いて、笑っている。だから、自分の過去と重ねて読んで頂いてもいいですし、彼らの物語そのものを楽しんでもらってもいいです。いろいろな読み方をしてください」

取材後記

 インタビュー終了後に盛り上がったのが、道尾さんが好きだという劇団「ナイロン100℃」のお話。実は私、金井もファンでよく観に行くため、話を切り出してみたのだ。そんな「ナイロン100℃」の劇である『わが闇』に「大切なのは、この人達が、これから先も生きていったってこと――」という台詞が出てくる。そう、『月と蟹』という舞台は幕を閉じるけれど、登場人物たちはみんな、そのあとも生きていくのだ。

 それについて、道尾さんは「彼らがどうなったかは、読み手の中で決めてもらえればいいですね」とおっしゃっていました。是非、『月と蟹』を最後まで読んで、その後のストーリーを余韻として想像して楽しんでみてはいかがだろう。道尾さん、ありがとうございました!

(新刊JP編集部/金井元貴)

著者プロフィール

道尾秀介

1975年生まれ。2004年に『背の眼』でデビュー。2007年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞受賞。2009年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞受賞。今年に入ってからは『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23 回山本周 五郎賞を受賞。今最も注目されている作家だ。


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