世の中には「善人」と「悪人」の2通りがいると思っている人がいます。B級映画では、善人は見るからに善人、悪人は最初から悪人っぽいのです。実際には、善でも悪でもない人が世の中にはたくさんいます。
1人の人間の中は、もっと複雑です。善人なる要素と悪人なる要素が両方あるのです。そもそも世の中の常識が動けば、善と悪は入れかわります。立場の違いでも、善と悪は分かれます。
お店の立場から見た善と、お客様の立場から見た善とは違います。人間的な善もあれば、商売的な善もあります。善と悪は、単なる二元論ではないのです。
小さい世界で生きている人は、「善人でなければ悪人。悪人でなければ善人」という解釈になります。会った人に対して、常に「善人か悪人か」というところから入るのです。
「いいね!」と承認してくれた人に対して、「あの人はいい人だ」と思います。「いいね!」が99あっても、1回のレスがないと、「なんと、あの人は意外にも悪人だった」とショックを受けるのです。最初から「いいね!」を押していない人は恨みません。「あの人は悪人」と決めているからです。
一番つらいのは、一度「いいね!」を押してくれた人を善人と思うことです。ある時、忘れたのか、忙しかったのか、いろいろ事情があって、「いいね!」が返ってこないことがあります。その瞬間、「あの人は最低だ」「私はあの人から見放された。また天涯孤独だ」と思うのです。
これは本人の中で勝手に揺れ動いているだけです。状況は何も変わっていないのに、自分自身があたふたして疲れていくのです。
すべての人の中に善と悪があるのだと思えば、何もショックは受けません。ムダなエネルギーの消耗をなくすことで、メンタルは強くなります。メンタルの弱っている人は、喜怒哀楽のアップダウンが大きいのです。
喜んでいる時にメチャクチャ喜んで、1回「いいね!」がなかった瞬間に、ドーンと落ち込んでしまうのです。善人と悪人で、分けないことで、メンタルが強くなります。
優しい上司に「この人が母親に違いない」と、すり寄っていくと、どこかで母親でないことに気づきます。おっぱいを飲ませてくれないのです。その瞬間、最初から「他人」と思っている人より、もっと嫌いになります。自分のことを「天涯孤独」「母なき子」と感じます。
こういう人は、上司に限らず、すべての人間関係において、いい人を見ると、「あなたは私のお母さんじゃないですか」と、すり寄っていきます。それが母親ではなかった時に、「あの人、最低」と、怒りの対象になるのです。
自分自身も落ち込みます。そのショックでエネルギーを消耗します。本来、関係「99」の人は強力な味方です。それを切り捨ててしまうと、味方はどんどんいなくなって、さらに孤立します。
関係「1」の人は、捨ててもそれほどマイナスにはなりません。関係「99」の人を自分から切り捨ててしまったら、こんなに疲れることはありません。
例えば、ある読者が、その作家の本を読んで、「この人は私の気持ちを分かってくれる」と思い込みます。作者に手紙を書くと、なんと、返事が来ます。「やっと母親にめぐり合えた」と思っていたら、次に手紙を書いた時に返事が来ないのです。
ここで「裏切られた」「母親に捨てられた」という恨みになって、ネットで悪口を書くという展開になるのです。実は、ネットで悪口を書かれている人は、書いた人に優しくしている人です。例え優しくしてくれても、どこまでいっても母親ではありません。
母親は、1人いればそれでいいのです。まず、「母親」と「上司」の区別をつけることです。世の中には「他者」という存在がいると分かるだけで、精神的にラクになります。
「この人は、他者のわりにはけっこう優しいな」と感じられます。最初から期待感が強いと、マイナスしか感じなくなるのです。社会で、「ママ」を探さないことでメンタルは強くなります。
1959年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。博報堂勤務を経て、独立。91年、株式会社中谷彰宏事務所を設立。
【中谷塾】を主宰。全国で、セミナー、ワークショップ活動を行う。【中谷塾】の講師は、中谷彰宏本人。参加者に直接、語りかけ質問し、気づきを促す、全員参加の体験型講義。
著作は、『メンタルが強くなる60のルーティン』(PHP研究所)など、1,000冊を超す。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授