ホスピスにおける人との関わり方、マインドから企業のリーダーとしての役割を学ぶITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

» 2022年10月12日 07時05分 公開
[山下竜大ITmedia]
前のページへ 1|2       

 ある大腸がんの女性は、迷惑を掛けたくなかったので、1人で頑張らなければと思い込んでいた。彼女の目に映る景色はモノクロだったが、少しの勇気で一歩を踏み出すことで、暖かな手を差し伸べてくれる人がたくさんいることに気が付く。その瞬間、彼女の見る景色に色がついた。私が、あなたが、生きている世界は、明るく、温かく、無限に優しいので、1人で頑張らなくても大丈夫なのだ。

 人は、1人ではちっぽけで、弱くて何もできない存在だが、自分を認めてくれる誰かとのつながり、支えとなる関係があると一転して強くなれる。人は単にいまを見ているだけでなく、過去の出来事から将来の夢に向け、いまを生きようとする。いまが辛くても、苦しくても、頑張れるかは将来の夢があるからだ。

 「選ぶことができる自由も重要です。これは広い概念で、選ぶことができないと苦しく、選ぶことができるとうれしい。医療の世界でも、望まない治療を無理にされたり、家にいたいのに入院させられたりすると苦しい。医療だけでなく人生は選択の連続ですが、1人の人間として選ぶことができる自由が基本的人権です。選ぶことができる自由、支えとなる関係、将来の夢の3つの支えがあれば、マイナスの気持ちをプラスにできます」(小澤氏)。

選ぶことができる自由、支えとなる関係、将来の夢の3つでマイナスをプラスに。

病気から学ぶこと、苦しみから学ぶことはたくさんある

 自分ごととして、自分の苦しみに気が付くためには、希望と現実のギャップを知ることである。ポイントは、もやもやするとか、イライラするとか、マイナスの気持ちを頭に浮かべること。それが希望と現実の開きである。苦しみが自分ごとになったとき、解決できる困難は問題ないが、解決が難しいこともある。繰り返しになるが、のヒントは(1)分かってくれる人がいるとうれしいし、(2)解決できる苦しみは解決する、(3)解決できない苦しみの中でも、穏やかになれる理由(支え)を見いだすという3つである。

 「明日、お迎えがくると分かっていたとしても、プラスの気持ちを持つことは可能です。皆さんが誰かの力になりたいときにどうするか。基本的には同じ考え方です。相手から見て分かってくれる人になることです。相手の解決できる苦しみは、ぜひ解決しましょう。もし解決できなかったとしても、頑張れる支えに気付くことができれば心は穏やかになります。30年近く看取りの現場にいますが、現場はきれいごとだけではありません。私自身、支えなくして、どうすれば絶望に思える死の現場に、長くとどまることができるのでしょうか」(小澤氏)

相手から見て分かってくれる人になることがコミュニケーションの基本。

 あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる。少し矛盾するように思えるが、例えば、患者さんの力になりたいという思いがあればあるほど、力になれない場面がある。「この仕事を30年以上やっているので、ある程度は自分の考えを持っていますが、ホスピスで働き始めて3〜4年はものすごく苦しく、力になれない自分が嫌いでした。苦しくて、苦しくて逃げたくなりました」(小澤氏)。

 仕事のこと、家庭のこと、さまざまな苦しみがあるが、一番つらいのは自分が誰にも必要とされていない苦しみである。どうすれば苦しみと向き合えるのか。逃げないこと。苦しむ人の力になりたいと願うとき、力になれないと苦しいが、苦しむ人の力になれなくても、そばにいれば、自分の本当の支えを知り、困難と向き合い続けることができる。

 「病気から、苦しみから学ぶことはたくさんあります。何気ない家族の一言がうれしい、何気ない友人の手があったかい。見過ごした花に心を奪われ、何げなく聞いた音楽に涙を流す。それは気が弱くなったのではなく、自分を認めてくれる人の存在に気付いたときです。座右の銘である“誰かの支えになろうとする人こそ、一番支えを必要としています。”は、私の言葉ではなく『いのちの授業』の話を聞いてくれた高校生の感想です」(小澤氏)。

 最後に小澤氏は、「エンドオブライフ・ケア協会では、ユニバーサル・ホスピスマインドを広めています。それは死と向き合うホスピスの現場で培われた、死を目の前にしても穏やかにいられる、あらゆる場面で役立つ取り組みです。学校、子育て、介護、人間関係、仕事、答えのない困難も感じ方や受け取り方が変わります。それは大切な人と自分が、限られた時間でも自分らしく過ごすための実践的な方法です。ぜひ半径 5メートル以内、家族でもいい、友人でもいい、職場でもいい、学んだことを実践してみてください。そしてぜひコミュニティーにも参加してください。たった1回の出会いでも人生が変わることを期待して、私の話を終わります」と講演を終えた。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆