もう少しあとになると、斎藤なずなが『恋愛列伝上』という近代文学史上の女性を主人公にした連作を描いている。その中の第3話「百合の闇」が漱石の話だという。
「漱石と、鏡子夫人の話です。ロンドンから帰国後、漱石の不安神経症が悪化。時々発作を起こしては、関係妄想にとらわれる様子を見ていて、この人病気なんだっていうふうに鏡子夫人が思っていく過程が描かれています。斎藤なずなさんは女性なので、女性目線から見た漱石の漫画を描いています」(夏目氏)
さらに、2016年のNHK連続ドラマ「夏目漱石の妻」が放送されたことを覚えている人は多いだろう。このドラマは、漱石をDV的な夫として客体化しつつ、その妻を主人公にして描いている。夏目氏は、「漱石の弟子たちが偉かった時代にはできないドラマです。しかし弟子がみんなこの世からいなくなると、これまで閉じ込めていたものが出てきます。だからといって、文学者漱石の価値が落ちたわけではまったくなく、やっぱり僕から見ても、文学者として、思想家としてすごい人です」と話す。
その他『先生と僕』という4コマ漫画もある。夏目氏は、「最初は同人誌で、人気が出たので単行本も出たっていうやつですけど、これは本当にオタク的な知識を寄せ集めて書いてあって、こんなこと誰も知らないだろうっていう漱石と弟子の話が延々と書かれています。そういう本も売れていくということです。今日の僕の講義の勘所は、私の専門である漫画と漱石をひもづけて話すことです。これは他の人にはできないことなので」と話している。
二松学舎大学では、創立140周年事業の一環として、夏目氏をはじめ、大阪大学大学院石黒研究室、朝日新聞社の協力により、漱石のアンドロイドを作成する先駆的で新発想の試みに挑戦している。現在はコロナ禍により中断しているプロジェクトだが、将来的にはAIを搭載し、もっと自由にやりとりができるようにして、漱石の存在がコミュニケーションにもたらす影響を実証実験していく計画という。
夏目氏は、「テレビで“マツコロイド”を見て、石黒浩教授の大ファンだったので、1も2もなく依頼を受けました。当初はただの人形のような状態でしたが、スタジオに何回も通い、声を吹き込みました。吹き込んだ声を再構成して、漱石が喋っているという風に作ったんですね。目の前で漱石が喋ると、みんな“ははっ”っていう感じになるんですけど、自分の声なので日本中で一番面白くないのが僕でした」と話す。
自分の声なので全然感動がないという夏目氏だが、漱石のデスマスクが残っており、それを見ると、夏目氏はもちろん、父親、叔父さんも漱石と顔の骨格だけは似ていると感じたという。
「顔の骨格が似ているので、声帯も似てる可能性があるんですよ。プロジェクトの前まで、このことを講演のオチにしていました。落語が大好きなので、大変申し訳ないけど漱石には会ったことがないというマクラから始めて、いろいろと話をして最後に僕の声がね、ひょっとしたら漱石そっくりな可能性がありますんでというオチで終わる。このプロジェクトのおかげで、それが本当になっちゃったっていう、そういうオチでございます」(夏目氏)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授