人的資本経営で求められる「部下全員が活躍できる職場」をつくるにはビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2023年05月11日 07時02分 公開
[前川孝雄ITmedia]
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高まる「人的資本経営」への取り組み

 近年、「人的資本経営」がクローズアップされています。契機となったのは、経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書〜人材版伊藤レポート〜」(令和2年9月)です。

 同報告によると、これまで企業で働く人材は、管理し使用・消費する「人的資源(Human Resource)」と捉えられてきた。ゆえに、人材に投じる資金も費用(コスト)と見なされた。しかし、今後は人材を「人的資本(Human Capital)」として捉え、マネジメントも管理から人の成長を通じた価値創造の手法に転換することが必要である。従って、人材に投じる資金も前向きな投資。職場におけるダイバーシティ&インクルージョン、エクイティ(公正性)も加えたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、リスキリング、働きがいやエンゲージメントなど、社員と企業との活性化をシンクロナイズ(同期・同調)させる観点から、人に積極的に投資していこうというものです。金融庁が定める上場企業の有価証券報告書にも、人的資本経営の取り組みと情報開示を記載することが求められるようになってきています。

 背景には、日本企業が欧米に比べ人材をはじめとする無形資産への投資を怠り、企業価値創出に出遅れており、従業員エンゲージメントも低迷する現状への危機感があります。今や世界の投資家が重視するSDGsやESGへの対応として、企業の人材育成・活用に積極的な対応が不可欠になっているのです。

問われる現場での人材育成の実践

 私は日本企業が人的資本重視にシフトし、その可視化が動きだしたことは、歓迎すべきと考えています。私が営むFeelWorksでは、職場のダイバーシティの促進、個のキャリア自律の支援、働きがいの創出などに長年取り組んできました。支援する企業や団体では手応えを得てきたものの、日本全体の潮流となるには程遠く、じくじたる思いがありました。それが、やっと正面から語られる時代になったことに感無量です。

 ただし、開示項目は記載ありきの形式的な数値の列挙に終始する恐れもあります。また、経営や人事が真摯(しんし)に取り組んでも、現場管理職も一枚岩になれるかどうか。歴史がある大企業ほど困難が伴うことは、容易に想像できます。いま問われているのは、各企業の現場での具体的な取り組みです。

 まさにこの人的資本経営を現場で推進する手法が、拙著『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』で示した具体的な5ステップです。このステップを、部下一人ひとりに合わせて一歩ずつ着実に進めていくことで、部下全員の成長と活躍を支援することができます。以下、アウトラインを紹介しましょう。

全員が育ち活躍する上司力5つのステップ

【STEP1】「相互理解」を深める

 一人ひとりが互いに異なる価値観や持ち味を持っていることを知り、理解し合い、心理的安全性を確保する

【STEP2】「動機形成」を図る

 組織の目指す目的、部下一人ひとりに任せる役割の目的という、働く目的を共有し、仕事へのモチベーションを高める

【STEP3】「協働意識」を醸成する

 チームの中での部下一人ひとりの持ち味が活きる役割を明確にし、互いに協力し合える環境をつくる

【STEP4】「切磋琢磨」を促す

 部下一人ひとりが自律的に働き、前向きに切磋琢磨し、改善・改革が進むよう促す

【STEP5】「評価納得」を得る

 節目ごとに部下一人ひとりに仕事と成果を振り返らせ、上司からのフィードバックに納得を得てもらい、次の成長に向かわせる

命令し・管理し・評価することから、傾聴し・支援し・フィードバックへ

 5つのステップを進める上で大前提となる心構えは、任せた仕事の当事者は部下自身と認識することです。部下の仕事の結果と、チームの業績に最終責任を持つのは上司です。しかし、任せた個々の仕事のアウトプットにまず責任を持つのは、部下自身。そうでなければ、部下は仕事に対し責任や緊張感を持つことも、成長することもままなりません。

 上司は、部下一人ひとりが担当の仕事をどう工夫し、どうチャレンジしたいのかを傾聴し、質問や対話で、前向きな思いを引き出しましょう。そして、部下自らが納得して考えた業務目標や行動計画を承認し、仕事が円滑に進むよう支援します。その結果も部下自身が正しく振り返り改善できるよう、フィードバックを行うのです。

 ぜひ、同書を参考にしながら部下の育成に取り組み、多くのプロを輩出する名上司になってください。

著者プロフィール:前川孝雄 株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

人を育て組織を活かす「上司力R」提唱の第一人者。30年以上一貫して働く現場から求められる上司、経営のあり方を探求している。1966年兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て、2008年に(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業・出版事業を営む。「上司力R研修」シリーズなどで400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会理事なども兼職。人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。

著書は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』『50歳からの幸せな独立戦略』『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』(共にPHP研究所)など36冊。

最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


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