アルムナイを貴重な社外人的資本と捉えることで生み出す新しい価値ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2024年12月19日 09時19分 公開
[濱田麻里ITmedia]
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 日本人のキャリア観は、近年の外的環境の変化に伴い、急速に変わりつつあります。「YOLO - You Only Live Once(人生一度きり)」と捉え、今の仕事に不満があるわけではないけれども、所属する企業を辞める、という選択肢について考える人も増え、企業の多くは、対応に追われています。

 最近では社内キャリアコンサルタントやキャリアカウンセラーを置く企業も少なくありませんが、いわゆる「就社」――従業員は自社で働き続け、自社だけでキャリアを完結させること――を前提とせず、むしろ「従業員と自社内のキャリアだけしか話さないことには現実味がない」と考え、社員がフラットにキャリアを相談できる環境を作る企業が増えてきているのも、1つの象徴と言えるでしょう。

 そうした中で、企業や個人、双方の退職や退職者に対する見方は近年、少しずつ変化してきました。そして「退職=縁の切れ目」という考えを見直し、これまでは想像もし得なかった「アルムナイとの価値共創」で成果を生み出す企業が増えてきているのです。

 アルムナイとの関係構築は、企業側によるひとりよがりの取り組みであってはいけません。アルムナイ自身も、退職した企業やそこで出会った社員との関係性を「社会関係資本」として捉え、自身のキャリアやビジネス上での「資産」として活用できる状態を作ることこそが、双方が長期的に価値を創出するための大切な姿勢です。

 ある人は、退職した企業との関係の中で業務委託での副業により自身のキャリア開拓のきっかけとなる経験を積み、またある人は、アルムナイ同士での交流を通して自身のビジネス人脈を広げることに成功しています。時には、外に出たからこそ分かったその企業の素晴らしさを胸に、さまざまな経験を背景にひと回り成長した状態で再入社を決意する人もいます。このように、企業とアルムナイとの関係は、両者の壁を取り払うことで、さらなる大きな可能性に満ちたものになるでしょう。

 日本社会におけるアルムナイの取り組みは、まだまだピークを迎えているわけでもなければ、“正解”が出ているわけでもありません。

 日本では、かねて人の定着を「雇用契約のもと、可処分労働時間の100%を自社に使ってくれること」と捉え、人材への投資を行ってきました。今後は、雇用契約以外の関係を新しい定着のかたちとすることで、多くの企業が今よりも最適な人材を確保できるようになり、それがひいては企業競争力の向上にもつながることと考えます。

 これからの日本に、文化として、そして社会のインフラとして、アルムナイとの関係性構築が根付いていくには、日本人の雇用に関する認識をアップデートさせていく必要があるでしょう。

 私たちが目指すのは、「退職で終わらない企業と個人の新しい関係」を実現することで、退職による損失がない社会の実現に向けた一歩を、皆さまと一緒に踏み出すことです。

 これから退職する人、既に退職した人との関わりを、見直してみませんか。

 「別れを資産に変える」ことで、それぞれが持つ人的資本や社会関係資本を最大化できるのではないでしょうか。日本企業の社員への投資が「資産」としてこれまで以上に有効活用されること、そして日本で働くすべての人が自身のキャリアを「資産」としてこれまで以上に生かしていけることを願ってやみません。

著者プロフィール:濱田麻里

株式会社ハッカズーク アルムナイリレーションシップパートナー ユニットリーダー

大学を卒業後、外資系コンサルティングファームのべリングポイント(現PwCコンサルティング)に入社。組織人事戦略チームでクライアントのパフォーマンスマネジメント導入や組織改革におけるチェンジマネジメントなどに携わる。出産によるキャリアブレイクをはさみ、その後ベンチャー企業でEC事業のオペレーションマネジメントや広報業務などに従事。現職では「企業と個人双方の“退職による損失”がない社会」を実現するために、人的資本経営の観点から企業とアルムナイの新しい関係構築をサポートしている。クライアント支援の他に、専門誌への寄稿や自社監修書籍のディレクションなども行う。


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