現在の経営環境では、お客様の志向が多様化かつ高度化し、製品やサービスがどんどん複雑になっています。しかも、この志向は激しく変化し、一部の業界ではサービストレンドが数年どころか数か月で変化するありさまです。現在の経営は、このような複雑化と迅速化が同時並行で進む世界です。
このような環境では、企業は高い精度の戦略を立て、計画的に実行していくことが難しくなります。そのため事業戦略の運営は、戦略や計画の策定に多くの時間を費やすのではなく、製品やサービスを素早く具現化して市場に出し、お客様の反応やビジネスプロセスから上がるデータを見ながら、戦略とプロセスの双方を素早く見直していく「仮説検証型」にシフトしています。このような粗い戦略を基に「やってみて、すぐに修正する」経営は、現在の戦略運営の主流の考え方となっています。
ただ、このような運営が成り立つにはビジネスプロセスの修正が、戦略運営サイクルのスピードについていける必要があります。そして、そのためにはビジネスプロセスの構造が速やかに理解可能な状態になっていなければなりません。
変化に際して新たなプロセスへの置き換えが必要な箇所と、そうでない箇所を速やかに識別し、必要な箇所は素早く新たなプロセスに置き換えていくのです。
例えばファッションブランドを展開するあなたの会社が、自社の商品をサブスクリプション契約(=期間内で自由に商品を利用できる形態の契約)で提供するサービスを始めることにしたとしましょう。このサービスでは定額の会費で、自社のさまざまな洋服を自由に交換しながら使うことができます。
この新たなサービスを導入する時、ビジネスプロセスはどう変わるでしょうか。商品の生産プロセスはさほど影響を受けませんが、物流は大きく変わります。これまでの出荷に特化した機能だけではなく、返却された商品の受け入れ機能が必要になるからです。
もちろん、物流以外にも多くの仕事に、さまざまな変化が加わります。あなたの会社には、変化に際して、素早くそのポイントを識別する仕組みはあるでしょうか。
そして、ひとたび新たなサービスを開始した後には、構築したビジネスプロセスの構造にデータを重ね合わせて状況を把握し、素早く意思決定を行っていきます。
お客様に速やかに商品は届けられているのか、人気の商品は何で在庫は十分なのかといったことをリアルタイムで把握し、改善していきます。この時も、改善事項を素早くビジネスプロセスに反映できる必要があります。
近年、変化に際して素早く事業や組織を変化させ、環境に適応していくための組織能力を「ビジネスアジリティ」と呼びますが、ビジネスプロセスマネジメントはこのビジネスアジリティを構成する大切な要素の1つです。
過去のビジネスプロセスマネジメントは、どちらかといえば現場における継続的な改善を通して、既存のビジネスプロセスの品質とスピードを着実に向上させていくことに主眼が置かれていました。しかし、これからのビジネスプロセスマネジメントは、必要がなくなったプロセスを素早く捨て去り、新たなプロセスに置き換えていくための分析基盤としても、その重要性が増しているのです。
ビジネスプロセスマネジメントはビジネス変革の方法論としては比較的“老舗”に属するものですが、欧米では隣接する領域の方法論との活発な議論を通して、今もなお進化しています。
近年ではビジネスアナリシスやビジネスアーキテクチャといった専門領域との交流を通して、その垣根はどんどん低くなる傾向にあります。ですから、細かい点はともかくとして、実務レベルでは細かい方法論の差異を気にする必要はありません。
ここに紹介したようなビジネス変革の方法論はデジタルトランスフォーメーションや仮説検証型の経営を効果的に進める上で、大きなポイントとなります。ぜひ、これらのさまざまな方法論に興味を持ち、より多くの学びを得てもらえれば幸いです。
株式会社エル・ティー・エス 上席執行役員 CSO
米国PMI認定PMP(Project Management Professional)
IIBA認定CBAP (Certified Business Analysis Professional)
TOGAF9(R) Certified
IC Agile Coaching Agile Transitions (ICP-CAT)
SAFe4.0 Agilist
ビジネス・ブレークスルーチャンネル ビジネスプロセスマネジメント講師
公益社団法人企業情報化協会(旧BPM協会)/IIBA日本支部 BPM研修講師
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