――宮下さんにとって“おもしろい小説”とはどんな小説ですか?
宮下:「読み手の立場で言うと、仕掛けとか話の筋よりも“あの一行が忘れられない”っていう本のことをよく覚えているんですよね。だから描写のおもしろさだと思います。
書き手としては……この本の主人公もそうなんですけど、途中で“何かが変わる”瞬間があるんです。そこを書けた瞬間に自分の中でおもしろいっていう感じがするんです。
読んでくださる人も、その部分を読んでハッと気付くわけではなくても、“ああ何かちょっと変わったな”というのを手ごたえとして感じてもらえたら、おもしろいと思ってもらえるんじゃないかと期待してるんですけど…(笑)“成長”ではなくただの“変容”であったとしても、やっぱり何か変わっていてほしいんですよ。生きて様々なことを経験しても全く変わらない人っていないと思うので」
――宮下さんがこれまでの人生で影響を受けた本がありましたら三冊ほどご紹介いただければと思います。
宮下:「一冊目は、山田太一さんの『沿線地図』です。高校生の最初の頃に読んで眼が覚めたっていうか、小説として読んだっていうよりも、それこそ人生に直接影響を受けたという感じです。“こんな寝ぼけた生活はダメだ!”って思って(笑)何だか走り出したいような気持ちになったのをはっきり覚えています。それと山本周五郎さんの『柳橋物語』と、最後はジョン・アーヴィングの『サイダーハウスルール』。私がいいと思う小説は“あーおもしろかった!”というものじゃなくて、私は私として生きて行くんだという気持ち、燃えるような気持ちにさせてくれる本なんです。この三冊はそういう共通点がありますね」
――今後の作家としての目標がありましたら教えていただけますか。
宮下:「売れる売れないという意味じゃなくて、純粋に“これ、読んでみて”と言える、自分が自信を持っておもしろいと思える本を一冊ずつ書いていくことですね。一番身近であり大きな目標です」
――最後になりますが読者の方々にメッセージをお願いします。
宮下:「読んでおもしろいと思っていただけたらうれしいです。ぜひ読んでみてください」
書くことも読むことも大好きな点といい、小説を書き始めた動機といい、作家になるべくしてなった方、という印象を受けた。
今回、発売された『田舎の紳士服店のモデルの妻』はご本人が語る通り、淡々と物語が進むが、それは読んで退屈だということでは全くない。淡々と書くことでしか表現できない“何か”を是非読みとってほしい。
(取材・記事/山田洋介)
宮下奈都
上智大学文学部哲学科卒。2004年、「静かな雨」が文學界新人賞佳作に。長編『スコーレNo.4』(2007年)も各メディアで絶賛された。その他の著作に『よろこびの歌』(実業之日本社)、『遠くの声に耳を澄ませて』(新潮社)、『太陽のパスタ、豆のスープ』(集英社)などがある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授