ボイストレーニングの正しい呼吸法とはどのようにすればよいのだろうか。まずは準備運動のつもりで、深呼吸をしてみる。リラックスして、大きく息を吸い、10秒間止めてから「フッ」と一気にはき出す。このとき「ぶあっ」となるのは、横隔膜でなく、のどで息を止めているからである。
世界3大テノールの1人である「ルチアーノ・パバロッティ」は、歌っているときにはお腹が前に出ている。同じく日本人テノールである「秋川雅史」も同様である。これは横隔膜のスイッチを入れているのである。お腹を引っ込めていると横隔膜を動かすことができない。そのためお腹を前に突き出すのである。
横隔膜のスイッチを入れるためのトレーニング方法は、「あー」と声を出しながら両手をグーにして肋骨の下あたりを押したり、戻したりする。これにより、「あ〜、あ〜、あ〜……」と声にビブラートをかけることで横隔膜のスイッチが入る状態をイメージできる。「これがビジネスパーソンに必要な発声方法である」と永井氏は言う。
次にどんなトレーニングがあるのか。基本的な横隔膜トレーニングには、(1)横隔膜ブレス、(2)横隔膜ボイス、(3)ドギーブレスの3つである。(1)横隔膜ブレスは呼吸により横隔膜を鍛え、(2)横隔膜ボイスは呼吸と声で横隔膜を鍛え、(3)ドギーブレスは犬のような呼吸をして横隔膜をトレーニングする。
また目的別トレーニングには、(1)低音トレ、(2)ブルトレ、(3)低音ブルトレの3つがある。(1)低音トレは信頼感のある低音の声を出すトレーニングで、(2)ブルトレは横隔膜をブルブルふるわせながら横隔膜を鍛えるトレーニング、(3)低音ブルトレは低音トレとブルトレを組み合わせたトレーニングである。
さらに発声のポイントとして、(1)基本姿勢、(2)口の中は広く、(3)口呼吸、(4)お腹の張り返しの4つに注意することが重要になる。永井氏は、「声を出してのどが痛くなるのは、のどで声を出しているから。このトレーニングにより、のどに負担がかからない話し方ができるようになる」と話している。
それでは、実際のトレーニングをいくつか紹介する。まず「横隔膜ブレス」の方法は、次のとおり。
(1)お腹に手をあてる
(2)息を吸う
(3)口をふくらましながら息を細く吐き出す
このとき口がぱんぱんにふくらんでいること、口の前にかざしたティッシュが5秒以上はためいていること、張り返しを感じることが重要である。永井氏は、「このトレーニングをはじめたら、ジーンズのサイズが下がった」と話す。
次に「低音トレ」だが、低音トレは「ポルタメント」と呼ばれる技術を利用する。ポルタメントとは、高い音から低い音になめらかに音程を変える演奏法のことである。方法は、次のとおり。
(1)左手を肋骨の下にあて、右手は伸ばして手のひらを前に向けて頭の上にかかげる。
(2)口を開け、息を吸う。
(3)「はぁ!」と声を響かせて、音を切らずに音程を下げていく。このとき左手でお腹の張り返しを意識する。
(4)低い声で「あ〜」とのばす
また「低音ブルトレ」は、低音トレで低い声に下がったときに両手をグーにして横隔膜を刺激し、「あ〜、あ〜、あ〜……」とビブラートをかける。永井氏は、「これで普段いかに横隔膜を使っていないかを理解することができる」と語る。
「低い声が出るトレーニングをしても、いざ人前で話すと甲高い声に戻ってしまうことはある。甲高い声で話していた時間の方が長いのだから、数カ月のトレーニングですぐに低い声で話すことは難しい。そこで人前で低い声で話す秘策を紹介する」(永井氏)
秘策とは「悪代官スペシャル」である。時代劇に出てくる悪代官が、「んっんっんっんっ、越後屋、おぬしも悪よのう」と言うあの台詞である。「口を閉じて笑うとき、上下の歯は空いている。この状態が重要である」と永井氏は言う。
悪代官スペシャルの方法は、以下のとおりである。
(1)肋骨の下のお腹に手を当てる
(2)あごを下げ、口を空けて、ゆっくり息を吸う
(3)口を閉じ、口の中に空間を取ってあごを下げ、「んっんっんっんっ」と笑う
(4)そのまま「越後屋、おぬしも悪よのう」と言う
このとき手でお腹の張り返しを感じていること、横隔膜が同じリズムで動いているかを意識することが重要になる。横隔膜を使うと早口にならず、滑舌がよくなり、遠くまで声が届くようになることが理解できるのではないだろうか。
永井氏は、「1人でも多くの人に、声のコンプレックスを克服してもらい、日本のためにすばらしいプレゼンテーションをしてほしい。またスピーチで日本の社会を変えてほしいと願っている」と話し講演を終えた。
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明治学院大学 経済学部准教授