大事なことだけシンプルに伝える技術ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2018年11月29日 08時05分 公開
[伊藤洋一ITmedia]
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 ミュージシャンのように演じ、相手の懐に飛び込んでいく。そこに壁をつくらない。声を発するのも、単に言葉を出すのではなく、相手に語りかける。そういうスタンスで臨めるかどうかで、相手の受け取り方はまったく変わってきます。

人前で話す時の4つのポイント

 ここで、人前に立って話をする時のポイントを紹介しましょう。実際には、ケースバイケースで異なることも多いですがさまざまな人のプレゼンを見ていて、最低限このくらいは気を付けてほしいというポイントがあります。こんな簡単なことでも、意識しているとしていないとでは、相手からの印象はまったく異なってきます。

(1)視線:しっかりと聞き手を見る

(2)手振り:多少、動きをつける。大げさに動くと、聞いている人は、そちらばかり気になり、本末転倒になります。あくまでさりげなく。

(3)声:「相手と対話するように」声を届ける。強調するところで大きな声を出し、「ここだけの話」をするなら、こっそりと。

(4)間合い:話の区切りで、普段より 3 秒ほど長く、間をとってみる。例えば、「A について話します。(3秒間) 次に B について話します」という風に話すということです。

 大事なのは、これら一つ一つの要素をどうするかではなく、「相手に、自分が伝えたいことがしっかりと伝わり、動いてもらう」ために、必要なことを全て実行するという姿勢です。目的を見失わず、やるべきことを全てやって、相手を動かしましょう。

 この姿勢があれば、1分どころか、一瞬で相手の印象を変えることができます。

「リトルホンダ」をつくる――いかに「相手の立場」に立って話すか

 なお、「伝えよう」とするだけではうまくいきません。もちろん、「伝えたい」ことがあるから伝えるのですが、一方的に「自分がこう思う」ということを伝えても、相手は動きません。

 つまり、「自分が相手に伝えたい」という視点(「主観の自分」と呼びます)しか持っていないのであれば、その話を聞いている相手の気持ちが理解できず、結果、相手に伝わらないのです。今、伝えているこの言葉を、相手がどのように理解しているか、どのように感じているかといった視点は、主観の自分は持っていません。すべきなのは、「話している自分と相手を俯瞰で見る」ということです。

 具体的には、「話している自分と、聞いている相手のことを客観的に見ているもう一人の自分」を置いて、常に相手は自分に対してどのような印象で受け止めているのかをチェックし、そのフィードバックを受けて、話し方を変えていくのです。

 分かりづらいので、図で説明しますと、1、は自分の主観で相手に話しています。2、は、通常いわれるところの「客観的に自分を見て」話すイメージです。私がよくやっているのは、3、の俯瞰で、相手に憑依するような感じの自分がいます。相手から見て自分がどう映っていて、どんな話をしてほしいのかを感じながら、客観的な自分が自分を見ながら言うべきことを決めています。

俯瞰で見ながら話す方法

 とはいっても、イメージがつかない人のために、簡単にできる方法を紹介します。それは、実際に「相手の席」に座ることです。

 具体的には、例えば人前でプレゼンをする時、大抵リハーサルの時間というのがあります。その際、私はマイクでスクリーンの前に立って話を始める(つまり、本番のような形で練習する)前に、必ず聞き手の席に座るようにしています。

 聞き手の席に座り、聞き手からの視点で、プレゼンター、つまり後で私が立つ場所を見つめる。そこに私がいて話している姿を想像する。そして聞き手は、壇上に立っている私をどんな気持ちで見て、どう感じ、どう話されると「いいね!」と思い、どう話されると聞く気を失うのか、どんな私であるべきなのかということを想像します。ひとしきり想像を終えたら、プレゼンターの場所に立ち、先ほどの想像をした自分の姿を頭の中におきながら、リハーサルをするのです。

 そうすることで、伝えている「主観の自分」が、先ほど聞き手の席に座って想像した自分の姿になっているかどうか、なっていないとしたらどこが問題なのかをチェックすることができます。

 例えば、姿勢はいいか、目力はあるか、笑みはあるか、声の大きさは十分か、声に張りはあるか、話している言葉を聞き手は理解できるか、ストーリーは分かりやすいか、興味を持ってもらえるような話か……そんなことについて、先ほど想像した自分と今の自分の違いをチェックする。その視点がまさに「客観の自分」なのです。

 サッカーの本田圭祐選手が、2014年にACミランに移籍する時に、「心の中のリトル・ホンダに聞きました。そうしたら『ミランでプレーしたい』と答えた。それが決断した理由です」と、記者会見で話していましたが、あの感じです。ここで本田選手が言っている「リトル・ホンダ」が、「客観の自分」なのだと思います(確認したわけではありませんが)。

 これはプレゼンだけに限りません。会議でいつも社長が座る席から会議室の風景や自分がいつも話している場所を見てみる。それだけでも意識は変わってきます。これをとても分かりやすい言葉でいえば「相手の気持ちになる」ということです。

 よくいわれますよね。相手の気持ちになって考えよ、と。なーんだ、そうか、と思うでしょう。でも、「相手の気持ちになる」とはこういうこと。相手に憑依した感覚になれば、リアルタイムで相手の気持ちになれるわけです。これをしっかり身に着けると、プレゼンの説得力が上がり、断然伝わるようになります。

著者プロフィール:伊藤羊一(いとう よういち)

ヤフー コーポレートエバンジェリスト Yahoo!アカデミア学長。ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBAプログラム(GDBA)修了。1990年に日本興業銀行入行、企業金融、事業再生支援などに従事。2003年プラスに転じ、事業部門であるジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編などを担当した後、2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。

かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見いだし、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEOコースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。

2015年4月にヤフーに転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つ他、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。


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