心をつなぐ接客。“やりがい”で人は輝くビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2018年12月06日 07時07分 公開
[小野正誉ITmedia]
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 効率化を考えるのなら、券売機を設置したほうが、コスト的にも時間的にも断然メリットがあります。それでも、丸亀製麺では人がレジを打つというスタイルを変えるつもりはありません。目の前にいるお客さまの様子から体調を気遣うようなことはAIにはできないからです。人とのちょっとしたやりとりから温かみは生まれるものなのです。何もかも自動化、機械化されている現代だからこそ、パートナーさんとの何気ないやりとりがお客さまの心に響くのではないでしょうか。

 多くのチェーン店同様、丸亀製麺にもマニュアルはあります。とはいえ、他のチェーン店の人が見たら、おそらく「この程度でいいの?」と拍子抜けするぐらい、基本的なマニュアルしかありません。身だしなみやあいさつの仕方などが載っていますが、ごく当たり前のことしか定めていません。

 結局のところ、マニュアルで細かく定めすぎると、「覚えた通りにすればいい」という意識になってしまいます。丁寧に接客をしているけれども、マニュアルに従ってやっているのだろうな、と感じるお店があるでしょう。「いらっしゃいませ」と言ってから、45度頭を下げる。数分しか待たせていないのに、「大変お待たせいたしました」と頭を下げる。丁寧な対応の方がお客さまも好感を持つのは間違いありませんが、心がこもっていないと感動は生まれないのではないでしょうか。

 丸亀製麺としては、マニュアルでガチガチに縛るより、目の前のお客さまを見て臨機応変に対応してほしい、と考えています。例えば、車椅子のお客さまには、率先してドアを開ける。お客さまの代わりにお盆を持って席まで運ぶ。それはマニュアルというよりヒューマニズムの話なので、「決められているからする」ということではありません。

 お客さまがお盆に汁をこぼしてしまったら、この状態のまま食事を続けるのは不快だろうなと感じ、「お盆を取り換えましょうか?」とすかさず声をかける。そういう小さな気配りが、心に響くと思うのです。

 個人の判断に任せると店ごとの統一が取れなくなりますし、よく気の付く人もいれば、そうでない人もいるので、個人の力量の差も出てしまいます。現場でスタッフを指導する立場としては、細かくマニュアルで定めたほうが、サービスを一定レベルで提供できるので楽でしょう。教えるのも短時間で済みます。

 しかし、それだとスタッフはいつまでたっても自分の頭で考えて行動できるようにはなりません。人は創意工夫することに喜びを感じるので、モチベーションややりがいも感じないでしょう。自分で考えないと「マニュアルに書いていないことはしない」という状況にもなるので、結果的に店や会社の質を落としてしまうのです。ガチガチでないマニュアルで人を育てるのは時間がかかります。それでも、自由度が高いと人の伸び代は広がると思います。

 丸亀製麺の味とサービスの質を維持しているのは、まさに現場で働くパートナーさんです。彼らを信頼し、ほとんどの仕事を任せ、頼っているからこそやりがいを感じ、生き生きと仕事をしてくれているのだと思います。

著者プロフィール:小野正誉

1972年奈良市生まれ。和歌山市育ち。トリドールホールディングス 経営企画本部 社長秘書・IR担当。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1年で退社。その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011年より「丸亀製麺」を展開するトリドールホールディングスに勤務。転職してわずか3年で社長秘書に抜てき。入社後7年の間、国内外に1500店舗以上を展開するグローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。

著書に『メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)、『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?』(祥伝社)がある。


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