DX推進は経営そのもの、守りも攻めもできるところから一気に――H2Oリテイリング 小山徹氏デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)

» 2023年08月09日 07時06分 公開
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 新事業モデルへの挑戦も2023年5月に高槻エリア(大阪府高槻市)で始まった。新しい顧客とのつながりを構築することを狙ったスマートフォンアプリ「まちうま」のサービスだ。「まちうま」では、地域のお店や料理の情報を収集することで、自分に合ったお店を見つけることができ、飲食後にも飲食の内容やコメント、お店の評価などを投稿し、記録することができる。一連の顧客体験をシームレスにつなぐことで、「おいしい体験」の最大化を目指しているという。

「今日何食べよう?」と迷わず高槻グルメを楽しめるスマートフォンアプリ

 「IT中期計画をスタートして2年、着実に成果を上げつつあります。とはいえ、現状全てのお客様がスマートフォンを使えるわけではないので、どうしても紙ベースの作業が残ってしまいます。紙が残るということは、どこかでデータ化の作業が必要です。そこでTo be(理想)ではなく、ステップバイステップでCan be(できるものからやる)で進めています。例えばデータ変換では、光学文字読取(OCR)ツールで紙の情報のデータ化を自動化するCan beの取り組みなども進めています」(小山氏)

H2OリテイリングのDXは、ある意味“昭和から令和への進化”

 コロナ禍前は、各社が部分最適でIT・デジタル化を推進してきたが、コロナ禍以降はより一層正しくIT・デジタルを活用していくことを目的に、「IT・デジタル経営委員会」を社内に設置した。この委員会では、社外取締役にも参画してもらい、IT投資が適切に使われているか、スケジュールが適切に進捗しているか、成果を着実に上げているかなどをチェックしている。またデジタル化を推進していくために、社内でプロジェクト管理者(PM)はもちろん、エンジニアを育成することも進めている。

 「デジタイゼーション、デジタライゼーション、その先のDXの推進では、テクノロジーの導入だけではなく、それを実現する組織を社内外のリソースを活用しながら確立するのはもちろん、人材の採用や育成も重要な取り組みになります。この2年の取り組みで、ローコード開発ツールでシステムを構築できるチームも確立しています。事業部門からIT・デジタル推進室に出向してもらい、ITの“いろは”から開発までのリスキリングも実践しています。2023年度は教育チームも立ち上げる計画です」(小山氏)

 またセキュリティに関しても、Can beできっちりと対策していく方針を立てている。例えば、EPP(Endpoint Protection Platform)/EDR(Endpoint Detection and Response)を導入し、標準端末を確実に守る仕組みを導入したほか、ゼロトラストにチャレンジするといった取り組みも進めている。2022年9月の本社移転を機にローカルブレイクアウトのネットワーク構成を導入し、端末からデータセンターを経由せず、インターネットを介してクラウドサービスを利用する仕組みを実現した。

 「H2OリテイリングのDXは、ある意味“昭和から令和への進化”です。ITやデジタルは経営そのものですが、一方で道具でしかありません。商品を販売したり、サービスを提供したりすることでお客様から対価を得る、お客様あっての商売であり、関西を中心とした社会の一員でもあります。これを支えるのがIT・デジタルであり、現場がちゃんと使えて初めて経営の武器になります。売上や利益の向上だけでなく、お客様満足度を向上させ、従業員が幸せになれることが重要です。これは経営の責任であり、IT・デジタル推進室がその経営の一翼を担い、現場の代表として取り組むべき課題です。それはSIベンダーやコンサルティング会社の仕事ではありません。繰り返しになりますが、IT・デジタル推進は経営そのものなのです」と小山氏は話す。

聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)

Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エゼクティブのプロデューサーを務める。


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