高い目標に向かって挑戦し続ける上でカギとなる3つの力ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術

「世界の患者を救う〜内視鏡AIでがん見逃しゼロへ〜」をミッションに掲げる挑戦は、これからますます世界を驚かせることになるはずだ。地方都市の開業医が大きな挑戦をする上で何がカギとなったのか。

» 2024年08月22日 07時06分 公開
[多田智裕ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。


『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』

 2017年9月にAIメディカルサービスを立ち上げてから約6年半。創業以来ずっと開発に挑んできた胃の内視鏡検査中に病変検出支援を行う「内視鏡画像診断支援AI」(=内視鏡AI)が、薬事承認を取得し、製品化されました。医師とAIの協調で内視鏡検査は大きな変革期を迎えています。

 「世界の患者を救う〜内視鏡AIでがん見逃しゼロへ〜」をミッションに掲げるわれわれの挑戦は、これからますます世界を驚かせることになるはずです。

 一介の地方都市の開業医である私が大きな挑戦をする上でカギとなった3つの力について話します。

「目標力」――そこそこの目標ではそこそこの結果しか出ない

 私たちが、世界が驚くような取り組みをできたのはなぜでしょうか。間違いなく言えるのは、最初から「世界最高水準」を目指していた、ということです。

 そこそこの成功に満足してそこで終わってしまうのではなく、とてつもなく高い目標を持つ。「このくらいできれば十分だろう」と妥協するのではなく、どうにかしてもっと上を目指せないか、ということをいつも考えていました。

 自分で妥協点を見つけ、そこで挑戦をやめてしまうのは、あまりにもったいないことです。

 私はクリニックを開業するとき、「世界最高水準の胃腸科、肛門科診療を提供する」という目標を掲げました。

 これが「ぜいたくな暮らしがしたい」「年収何千万円稼ぎたい」といった目標であれば、ある程度の段階で達成して満足してしまっていたでしょう。

 ただ、ぜいたくというのは飽きるものです。お金で買える幸せは、おそらく半年か3カ月くらいしか持たないのではないでしょうか。

 さらにいえば、この世の中でお金で買えるものはごく一部で、お金があっても手にできないもののほうがよほどたくさんあるのです。

 それに比べ、高い目標を掲げた上で得られた満足感は、一生続くものだと思います。

 クリニックを開業したとき、多くの優秀な内視鏡医が手を貸してくれました。幸いにもクリニックは、5年たたずに年間8000件を超える国内トップクラスの内視鏡検査数を誇るクリニックに成長しました。

 高い目標を応援してくれた人たちがいたおかげで、私も高い目標に向かって進んでこられたのだと思います。

 皆さんにも、これまで支えてくれたり、応援してくれたりした人がたくさんいるでしょう。今の力があるのは、決して自分だけの力ではありません。

 大きな目標を持って生きること。高い理想を掲げること。これらは、支えてくれた人たちへの礼儀でもあります。高い目標に向かって突き進むことは、きっと周りの人たちへの恩返しにもなるはずです。

「孤高力」――隣と自分を比べない

 これまでを振り返ると、周囲と自分を比べていたら、きっと今の私はなかったと思います。一般的に、東大理三に入学すると卒業後10年くらい先までのルートが見えていて、10人中9人がそのルートに沿った進路を進んでいきます。しかし私には、周りと同じ道を進もう、という考えはまったくありませんでした。

 当時の東大医学部では、親の後を継ぐ場合を除いて、開業は定年退職後にするものというのが常識でしたが、私は30代半ばでクリニックを開業。さらに40代半ばでAIスタートアップを起業しました。

 まさに孤高の道を歩んできたわけですが、それは私に「隣を見ない、隣と比較しない」というポリシーがあったからです。

 これは今も昔もですが、自分を周りと比べてばかりの人が多いように感じます。

 あなたとまったく同じ条件や背景を持った人はこの世に1人としていません。それなのに、他人と比べようとすること自体がナンセンスです。どうせ比べるのであれば、昨日の自分と今日の自分を比べたほうがいいのではないでしょうか。自分に勝つことはとても難しいことです。昨日より今日が何か1つでも良くなっていれば、いつかきっと何かを変えることができるはずです。

 もちろん周りと違うことをするのは、リスクを背負うことでもあります。周りと同じ道を歩めば楽だし、それほど大きな間違いをすることも基本的にはないでしょう。一方で、自分だけの道は、自分で切り開いていかなければなりません。どこにたどり着くかも分かりませんし、もしかしたら道を切り開く前に力尽きてしまうかもしれません。

 ただ、道を切り開いてたどり着いた先には、誰も見たことがない景色があるに違いありません。その景色を想像しながら日々生きることは、やりがいと生きている実感に満ち溢れているものです。

「徹底力」――途中であきらめずにやるべきことをやり切る

 AI開発というと、最新テクノロジーを駆使した華やかな仕事だと思う人が多いのですが、実際はものすごく地道な作業の連続です。

 最初の頃は私自身もペンを動かし、内視鏡画像を1枚1枚見ながら病変部位をひたすらマーキングする作業を黙々と続けました。AIの精度を上げるためには、寸分の間違いも許されず、想像以上の精密さが求められます。しかもそれを数千枚……。まさに気の遠くなるような作業です。

 このような地道な積み重ねをどこまでも続けることができるか、それとも途中であきらめてしまうか。成功できるか否かの差は、その一点にあるのではないかと考えています。

 私が通っていた灘高校では、私の学年は東大理三を16人が受験して16人全員が受かったのですが、おそらく学力的には40人受ければ40人全員が受かったはずです。

 実際にそうならなかったのは、途中であきらめてしまった人が多かったからです。第1志望校を変えずに最後まで貫き通すというのは、受験生にとっては簡単なことではありません。だからこそ、徹底してやり切った者こそ目標を達成するのではないでしょうか。

 何かを徹底してやろうとしても途中でくじけそうになるのは、「このまま続けても失敗に終わるかもしれない」という不安が原因であることが多いように思います。

 ただ、どんなに成功している人でも失敗したことがない人なんていません。あの「ユニクロ」の柳井正さんでさえ、『一勝九敗』という本を出しているくらいです。成功確率なんて1割程度、そう思えば、失敗を恐れることなくやり切れるのではないでしょうか。

 成功者はみな失敗知らずで、1度で成功しているように見えるかもしれませんが、実際はそんなことはなく、誰もが何度も失敗を経験しているのです。

 「1万時間の法則」というのを知っていますか。ある分野で一流として成功するには、1万時間の練習と努力、そして学習が必要だという法則です。

 これは考え方を変えると、「1万時間かければ、誰でも専門家になれる」と受け止ることができます。

 少なくとも、誰もが何かしらの分野の専門家には必ずなれるはず――。あらかじめこの法則を知っていれば、失敗を恐れずに徹底してやり切る勇気を持てるのではないでしょうか

著者プロフィール:多田智裕(ただ ともひろ)

株式会社AIメディカルサービスCEO/医療法人ただともひろ胃腸科肛門科理事長

1971年東京都生まれ。灘中学校・灘高等学校を経て、1996年東京大学医学部卒業、2005年東京大学大学院医学系研究科外科学専攻修了。虎の門病院、三楽病院、東京大学医学部附属病院、東葛辻仲病院などを経て、2006年埼玉県さいたま市の武蔵浦和メディカルセンター内に「ただともひろ胃腸科肛門科」を開業。2017年AIメディカルサービスを設立。2022年シリコンバレーとシンガポールに現地法人を設立。


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