コーポレート本社の存在意義を再考する〜投資家視点でDXとイノベーションを先導せよ〜視点(2/2 ページ)

» 2020年05月25日 07時03分 公開
[田村誠一ITmedia]
Roland Berger
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 2020年、経済産業省は、戦略的IT投資を促すべく東京証券取引所と共同で過去5回選定してきた「攻めのIT経営銘柄」を「DX銘柄」に衣替えした。今や、経営とデジタルは表裏一体、デジタルで事業モデルを革新し、ユーザー視点でイノベーションを創出できなければ、企業の生き残りは図れない。

企業内投資家としてのCHQ

 CHQのもう一つの役割は、経営資源配分の最適化だ。一般に、多角化企業は専業企業に比して資本市場で6〜12%程度低く評価される。いわゆる「多角化ディスカウント」の存在だ。そもそも投資家は、多様な企業へ投資する(投資ポートフォリオを組む)ことでリスク分散を図っている。換言すれば、企業に多様な事業を抱える(事業ポートフォリオを組む)ことなど期待していない。最も投資効率の高い事業に専念してくれれば、それでいい。多角化によって各事業の財務情報が見えづらくなることは、投資家にとって「百害あって一利なし」。透明性を阻害する壁でしかない。

 もちろん、企業経営はそれほど単純ではない。社員の雇用を守り、永続性な成長を実現するには多角化も必要だ。この、資本市場と企業経営との論理ギャップにこそ、CHQのもう一つの存在意義がある。各事業の株主価値を見極め、冷静に投資と撤退の判断を下し、優位性の高い事業群に経営資源を集中投下する。将来の企業価値最大化のため、時には大鉈(なた)を振るう。CHQは資本市場の論理をもって各事業部門と対峙(たいじ)する「企業内投資家」たるべきだ。

 1802年に黒色火薬のメーカーとして創業し、世界的な化学メーカーとなったデュポン。創業200周年を迎えるにあたり、100年後に向けて事業ポートフォリオをどう組み替えていくかを徹底議論した。その後、各事業の成長戦略やM&Aは各事業部門の管轄ながら、各事業部門が生み出したキャッシュは全社にプールし、CHQが将来の事業ポートフォリオに鑑みて傾斜配分している。

 DXもイノベーションも、既存主力事業の内部力学まかせでは進まない。グローバル先進企業に遅れるばかりだ。「両利き」の経営判断が求められるからこそ、企業内投資家たるCHQが必要なのだ。

「小さな本社」を超えて

 CHQは小さくあるべき、という「小さな本社」論。利益創出主体でない以上、正論だ。ただし、これは決して果たすべき役割の小ささを意味するものではない。CHQが、DXとイノベーションを先導する事業モデル革新者兼企業内投資家となったとき、多角化ディスカウントを打破する真の多角化企業が成し遂げられるに違いない。

著者プロフィール

田村誠一(Seiichi Tamura)

ローランド・ベルガー シニアパートナー

外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。


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