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» 2012年09月10日 08時00分 公開

マニュアル制作は組織の現状把握から始まるマニュアルから企業理念が見える(2/2 ページ)

[勝畑 良(ディー・オー・エム・フロンティア),ITmedia]
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マニュアル作りを成功させるには経営者の覚悟が必要

 日本で社員が居心地の良い会社といわれている愛知県春日井市にある中小企業の場合がある。この会社は企業の基底部分ともいうべき、職務マニュアルの一つである工場案内マニュアルがマニュアル作りの最初の出発点だった。

 企業の拡大にともない経営計画マニュアルを作ろうという声が社員の側から起こったのである。その時、社長は、社員全員を集めてこう言ったという。

 「自分は、みんなも知っているように、愚かで、お調子者であり、みんなの力を借りなければ経営計画どころか今日の金繰りもできない人間である。今日、みんなの総意で、将来をはっきり見えるものにしていくために経営計画を作ろうということになった。明日のことを考え今日の仕事をするというのは、余裕のある会社のすることである。うちの会社にそんな余裕はない。そこで経営計画は今年1年間の目標計画にしてほしい。そして、これを達成するためにわたしが何をすればよいかも考えてもらいたい。」これで、奮起しない社員は少ないと考える。この会社は初年度に130%の目標達成率をあげ、今は3年の全社経営計画マニュアルを全員の参画で作成しているという。

 この方法は少し特異な事例かもしれない。実際はワンマン社長もいようし、わずらわしいことは嫌いなおまかせ社員が大多数の企業もあるだろう。しかし、経営理念マニュアルや経営計画マニュアルから作り出すという手法は、はっきりしたメリットがある。それは上位者の示す方向が予め分かっているということである。つまり、前提条件の設定などにいちいち引っかからないで済むという点である。

 理念や経営計画が先行してもよい。それによって、行動が伴わない口先先行が優先しないようにすることが大切である。マニュアル作りの成否は、経験的には業務マニュアルにあると思うからである。

部門別の業務マニュアル作りに挑戦してみよう。

 業務マニュアルから作り出すというのが最もオーソドックスなマニュアル制作手順である。まず、マニュアル化すべき業務を列挙する。そして、その必要性を吟味し、時系列的な優先順位を定める。これは関係部課長の全員討議で決定しなくてはならないが、マニュアル導入の動機によっても異なってくる。

 マニュアル不要論の管理者の意見でマニュアル作りが頓挫しても一向にかまわない。部門長が制作するのを嫌がる部門のマニュアルは絶対に使われない。使われないマニュアルを作るよりはるかに損失が少なくてすむ。ともかくマニュアル作成順位の決定には、関係部課長の同意が要る。

 例えば、今非常に緊急性を要する課題をもっている業務があったと仮定しよう。その課題解決は、関係部課長にとっても必要である。このような業務の課題解決のためのマニュアル作りに反対する人はいない。

 例えば、各業務の関連性に着目して、その関連性の改善やその業務の他業務へのサ−ビスを強化する目的でマニュアルを作るという場合なども優先性は必然的に高くなるだろう。顧客からの受注内容を的確に設計部門に伝え、設計は顧客の意図や希望を生産に連絡していく。このような目的の営業マニュアルを作り、その中に設計対応職務の手順書を組み込み、次に設計部門の業務マニュアルを作る という具合に発展させていくことで、全社的な関連の業務横断マニュアルが自然に作成されることになる。

 このようにマニュアルは組織の縦系列と業務の横系列をしっかりと眺めて作成していけば、企業の人間関係も含めた改善に大きく寄与することになるのである。

 業務は職務から構成されている。職務はさまざまの行動手順の蓄積したものである。このように考えれば、全社的なマニュアル作りのポイントが業務マニュアル作りにあるという言葉が偽りでないことがお分かりになるであろう。

 職務マニュアルは、職務手順書の集積したものであり、それにはその企業の標準が書き記される。この手順書をどのように作るかについては新入社員受け入れマニュアルを題材として次回に説明する予定である。

著者プロフィール

勝畑 良(かつはた まこと)

株式会社ディー・オー・エム・フロンティア 代表取締役 

1936年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、1964年にキャタピラー三菱(株)に入社。勤労部、経営企画部、資金部を経て、1986年、オフィス・マネジメント事業部長としてドキュメンテーションの制作、業務マニュアルの作成、語学教材の発行などさまざまな新規事業に取り組み、1992年4月、業務マニュアルの制作会社である(株)ディー・オー・エム(現在:株式会社ディー・オー・エム・フロンティア)を設立し、代表取締役に就任。「いま、なぜマニュアル革命なのか?」(『企業診断連載』)で平成2年度日本規格標準化文献賞<最優秀賞>受賞など論文多数。


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