逆境でも組織を動かすリーダーに求められるものビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2016年08月18日 07時18分 公開
[出口知史ITmedia]
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恥を恐れない勇気

 MBA保有者は時間とともに増えていきますし、いろいろな書籍や研修などにより、企業経営に関する戦略や思考のフレーム自体の情報格差はほとんどなくなっています。大切なことはそれらをどう自社に適用して、実践を継続できるかということです。

 特別な技術や資産があるような場合を除けば、ある程度の規模や事業基盤の企業において結果が出るかどうかは、戦略や知恵によって起こる差と同等以上に、個人であり集団の感情的な欲をコントロールすること、それによる意思決定の判断軸が客観的・論理的であること。また、根底に志があり、それが共感されるものであり、どう共有しているかといういたってシンプルな運営上の力量によって起こる差が影響するように思います。

 組織の中で実質的にある程度の権限を持つと、部下や周囲に意思決定の理由の説明を端折ることが許されたりもします。感情に任せて判断して指示を出すことはすごく楽なことです。ただしその結果に対する反省や分析も端折ってしまうと市場の変化についていけなくなり、どこかでウミが貯まります。

 著者のように落下傘的に突然外から会社に入ってくる人に対して、土足で踏み込んできたように捉えるミドル層はたくさんいます。むしろその方が人間として正直な反応だと思います。ただしさまざまなアクションや意思決定について理由を尋ねた際に、単に「面白くない」という感情によるネガティブな反応と、きちんと説明できないことを隠すためにいわゆる「逆ギレ」のような反応をされる場合などがあります。後者であった場合、現状を改善できるカギが隠れていると捉えます。

 リーダーが部下であれ他人の力を引き出すためにはまず、説明責任を果たせるような、自分としては客観的に正しいと思える解なり論拠を持っていなければなりません。加えて、普段の生活態度を含めて自分自身で実行が伴っていなければなりません。

 そのうえで、さまざまなアクションが実効可能かどうか、組織や自分の管理すべきグループに価値観や判断基準が浸透しているか、日々の大なり小なりのPDCAを早く多く回し、その結果を確認しなければなりません。もちろん人間ですから判断が誤っていたことが露呈することもあります。その際には素直に認めて「ごめんなさい」をして、関係者の知恵を集めて改善策を考える行動が必要です。

 結果を確認する際のカギとなるのが、1次情報です。中間管理職の報告という2次情報を聞くだけでなく、それとなくでも構わないので、組織の最前線にいるスタッフやお客様、取引先など関係者からの1次情報を取りに行くことです。報告とは違った事象が見えることは多々あります(もちろん、中間管理職のプライドを傷つけないようにする配慮は必要です)。1次情報に触れている人たちが躊躇なくネガティブな報告もできるような土壌を作っておくことが理想的ではあります。

 よく「立派な人ほど腰が低い」とは言われますが、1次情報を集めるためには人として丁寧な態度が必要ですし、また、誤りが起こった時には影響が小さいうちに芽を摘んで改善するために協力を仰ぐ際も同様ですので、そうなっていくのでしょう。

 (今売れている書籍のタイトルにかこつけるわけではないですが)ネガティブな事実を受け止める、自分の誤りが露呈して恥をかくかもしれないリスクを受け止めながらも他者に説明をする、ごめんなさいを言える、取組みを後戻りさせる、判断を途中で変える、何かを新しく始める(うまくいかない時間を過ごす)。そんな諸々の勇気を持ち続けることが、会社を支えるリーダーにとって忘れてはいけないことだと捉えています。

著者プロフィール:出口知史

 東京大学大学院工学系研究科修了後、経営戦略コンサルティングファームのコーポレイトディレクション、ダイヤモンド社(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』編集部)、産業再生機構、グラクソ・スミスクライン(経営企画部)、メットライフアリコ生命保険(戦略企画部)および複数の投資ファンドに勤務。

 投資ファンドやコンサルティングファームでは投資先企業・クライアントに直接入り込んだり経営に自ら参画したりし、再建・成長させることを主な業務としていた。

 2007年より慢性的な営業赤字に陥っていた老舗の健康器具メーカーで常勤取締役を務め、1 年で恒常的な黒字体質にへ変革させ、その後3年連続で成長させた。同様に2015年より老舗の事務機器メーカーにおいても常勤取締役として早期の利益改善を実現させた。


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