「適所適材」を実現するためのポイントは2つある。1つ目は、当該業務に必要な能力を、ポートフォリオとして、定義できていること。2つ目は、必要能力が定義できた前提で、社員の能力を正しく把握すること。この2点が満たせて初めて「適所適材」が可能となるが、簡単なようで難しい。
1点目は、能力として定義すべきものの範囲が広いことが挙げられる。課題発見力、ソリューション構想力といったハードスキルから、チームの動機付け、協業先の巻き込みといったソフトスキルもあるし、さらには好奇心、協調性、社交性といった個人の性格や資質的要素も能力として定義しうる。
2点目は、自己評価にしても上司の評価にしても、それは主観的であるという点である。主観的な能力評価情報を束ねたときに、ある能力に長けた人を横比較するのが難しいというわけである。また、専門的知識を能力として捉える場合、当該知識は、時間が経過すると使えないものになってしまう。この能力のエージング(経年劣化)も考慮しなくてはならない。
特に、多くの企業が組織を新設し、取り組みを加速している「新規事業開発」・「次世代事業開発」において、いわゆるデキるエースを、属人的に密室での意思決定を経て抜てきするが、既存部署や他の社内からの納得が得られないといったことはままある。加えて、社内で適切な人材が見つからない/足りない、他方で社外からの採用もうまくいかない、といった課題に直面にされている企業が多い。
評価の属人性や個人の自己申告に起因するバイアスを気にしなければ、社員が持つ能力の見える化自体は、タレントマネジメントシステムを使えば、実現は可能である。問題は、見える化すべき能力の範囲や幅、粒度である。これは目的に照らして、意思を持って設計しなければならない。
例えば、新規事業としてイノベーションを構想する場合の能力の定義、といった具合に、具体的な目的に合わせて能力の幅と粒度を定義すべきである。特にビジネススキルは、幅と粒度において選択肢が無数にあるため、目的に絞って展開し、目的の拡がりに応じて、カバーする能力の幅や、能力の具体度を進化的に拡張することが肝要である。
多くの企業がビジョン、戦略、ビジネスモデル、社風において変化・変革を求めているが、変革のためにはこれまでの延長線にはない取り組みが求められる。ビジネススキルに限って言えば、変革の企画・実行に必要な人材要件、重要な能力・スキル要件は何かを定義することから始めてみるべきと考えている。
技術については、弊社仲間企業(協業先)のアスタミューゼが保有するデータベースを活用すれば、数千の技術領域、要素技術に細分化した能力につき、特許情報や論文など、外部情報を用いて社員の能力把握・評価ができる。従って、機械的に人手をかけずに社内の技術者の能力の見える化は可能である。ただし、昨今ビジネススキルと技術に関するスキルは境界線が曖昧になっているため、ビジネススキルと両輪で見える化が必要だと考える。
弊社の能力ポートフォリオをコアとした人材配置、教育、採用の高度化は、現在進行形で進化の途上にある。加えて、弊社では現在、適所適材の実現に向けた、既存事業からの最適な人材の引きのための、新しいBPR(Business Process Reengineering)についても、メソドロジーを開発中である。本稿の続編として、また改めて本内容について発信させていただきたい。
藤原 亮太(Ryota Fujiwara)
ローランド・ベルガー プリンシパル
慶應義塾大学法学部法律学科卒業、都市銀行を経てローランド・ベルガーに参画。ローランド・ベルガー東京オフィスにて、製造業を中心にコンサルティング業務に従事する傍ら、採用・教育・リテンション・評価をつかさどる社内活動のリーダーを務める。
徳本 直紀(Naoki Tokumoto)
ローランド・ベルガー プリンシパル
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、ローランド・ ベルガーに参画。 製薬、医療機器のヘルスケア領域および、自動車の分野を 中心に幅広いクライアントにおいて、全社戦略、マーケティング、 デジタル化、オペレーション改革のプロジェクトを多く有する。
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【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授